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新井さんの笑顔は涙でできている。
若きカープの4番打者が号泣した日。

posted2018/09/29 11:30

 
新井さんの笑顔は涙でできている。若きカープの4番打者が号泣した日。<Number Web> photograph by Kyodo News

2015年にカープに復帰。25年ぶりのリーグ優勝を果たした2016年にはシーズンMVPに輝いた。

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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Kyodo News

 ああ、やっぱりな……。

 真っ赤に染まったマツダスタジアムに、カープ3連覇の輪ができる。その歓喜の一番外で、仲間の肩を抱き、笑っている新井貴浩を見て、そう思った。

 今季限りでユニホームを脱ぐ男が自身、最後のペナントレース優勝の瞬間に笑っていた。それをテレビカメラが何度も抜く。年下のチームメートたちを包み込むような笑顔である。

 みんなが喜んでいる優勝を、湿っぽくなんてしたくない――。

 おそらく新井さんはそう思っていた。これはあくまで推測なのだが、十中八九当たっている。つまり、あの笑みは涙を内包している。

「今日は少しだけ酔いたくなったんよ」

 初めて、新井さんの人間性に触れたのは、まだ阪神タイガースの番記者だった頃だ。ある年のオフシーズン、たしか11月か、12月、冬の寒い日だったと思うが、人の機微がわかり、選手から信頼されている後輩記者から誘われた。

 新井さんが一緒に飲まないか、と言っていますが、どうですか。

 神戸の住宅街にあるバーだった。

「俺にもいろいろ悩みや考えごとがあるけえ、今日は少しだけ酔いたくなったんよ」

 オフにもかかわらず、この日もトレーニングで汗を流したが、それでも吹き飛ばせないモヤモヤが心にあるという。豪快な笑いの裏にある、繊細なものを垣間見た気がした。

 3人でテキーラのショットグラスを合わせた。一杯、二杯……。ひと息に飲み干して(そうするしかないのだが)、グラスが空くと、律儀な新井さんはこちらの分も新しいショットを注文して、その一杯ごとに乾杯してくれた。

 その合間に、野球人生についての苦悩を吐き出すような言葉はあるのだが、不思議と場は湿っぽくならない。こちらが神妙に聞き入ると、そのたびに新井さんが冗談を言って、笑わせるからだった。

【次ページ】 引退の取材でも、場を湿っぽくさせない。

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