藤田俊哉の日欧蹴球比較論BACK NUMBER
川島永嗣は移籍決定前も泰然自若。
藤田俊哉と語り合った日本人GK論。
text by
藤田俊哉Toshiya Fujita
photograph byGetty Images
posted2018/09/27 17:00
ロシアW杯で注目を集めた川島永嗣。ヨーロッパで長年にわたってプレーを続ける実力を持ったGKであることはれっきとした事実である。
「代理人からの連絡を待つだけ」
そんな川島と8月中旬にルクセンブルクで食事をする機会があった。ただ彼は当時、新シーズンの所属クラブが決まっておらず、しかもあと10日ほどで移籍市場が閉まってしまう状況だった。
もちろん自由契約選手はマーケットとは関係なくクラブに入団できるが、その時点では基本的にクラブ側の編成は終わっている。直前のW杯を戦った日本代表選手が所属クラブを持たないという現実。こればかりは私は想像もできない。
しかし苦況に立たされているはずの川島からは焦りを全く感じなかった。むしろ今後も現役としてのキャリアをさらに積むことだけをイメージしていた。
「だから淡々と準備を進め、代理人からの連絡を待つだけですよ! それより明日は久しぶりにGKコーチとトレーニングできるのでうれしいです」
こう語っていたのが印象的だった。
ルクセンブルクの市庁舎前の広場にあるレストランで、家族同士のゆっくりした食事会のはずだったが、結局フットボールの話ばかりになってしまった。
欧州で勝負することで成長を。
どんな状況に立たされても、常に前だけを見つめ、力強く自分の道を進む川島の精神力には頭が下がる。欧州5つ目のクラブで新たな挑戦を始めた彼のプレーに注目したい。必ず自分の居場所を探し出す鉄人は、きっと今シーズンのうちにゴールマウスの前に立っていることだろう。
それとともに、私は彼に続く日本人GKが欧州に現れてくれることも願っている。その思いは川島も同じだった。食事中にも日本人GKの今後の可能性についてたくさん話した。
「レベルの高いGKが多いヨーロッパで勝負することで大きく成長する。日本とは違うトレーニングスタイルも新しい刺激になる」
彼自身にとっても険しい道は続くが、少しでも世界との差を縮めたいと話してくれた。
世界の強豪国を相手にW杯で結果を残せる日本代表、そして東京オリンピックで優勝を目指す日本代表には、彼を上回るGKの台頭が必要だ。