球道雑記BACK NUMBER
ロッテ荻野貴司と迷い込んだ少年。
リハビリ中でもプロフェッショナル。
posted2018/09/25 08:00
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph by
Kyodo News
今から少し前の話になる。
オールスターゲームを4日後に控えた今年の7月9日。試合前の練習を終えて一塁側ベンチに引き揚げてきた千葉ロッテ・内竜也に、自身初出場となるオールスターゲームに臨む心境を聞くつもりで声をかけた。
すると、彼はちょうど全身鏡の前でフォームチェックをしていた荻野貴司の方に目を向けて、そちらに話をそらすようにこう言った。
「荻野貴司が僕の代わりにMVPを獲ってくれると思います。たくさんヒットを打って、盗塁も決めて、僕の代わりに活躍してくれると思うので彼に聞いてみてください」
もちろん彼特有のジョークも含んでいるが、突然話を振られた荻野はというと、手にしたバットの動きを止めて、少し困ったように笑みを浮かべながらただこちらを見ていた。
「では、荻野選手に話を聞いてみますね」と、こちらも切り返すわけにいかないので、その後も内に質問を続け、取材は無事(?)に遂行できたわけだが、取材が終りその場を離れ、この出来事を後から振り返ってみると、荻野も内と同様これまでの怪我や不振を乗り越え、今年、オールスターゲーム初選出を果たしている。
共に今年33歳を迎える同級生で、同じような境遇を持つ荻野に、内も何か思うところがあったのかもしれない。
もっと機転を利かして話を広げられれば良かったかなと自省しながら「明日の試合前は必ず荻野に声をかけよう」と心に決め、その日の試合を見ていた。
人指し指にボールが直撃し、交代。
だが、悲劇は突然訪れる。
その日の試合の6回表、埼玉西武・平井克典のインコース寄りの厳しいボールが、打ちに行った荻野の右手人指し指に直撃する。
その後、球審の右手が上がり荻野のスイングアウトが告げられ、球場が騒然となる中、荻野は右手を押さえベンチに引き揚げた。
その後、荻野は交代。試合後、記者団に囲まれた井口監督に荻野の怪我の状態について質問が飛んだが、すぐに骨折などの大きな怪我が発覚というわけではなかった。