球道雑記BACK NUMBER
ロッテ荻野貴司と迷い込んだ少年。
リハビリ中でもプロフェッショナル。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byKyodo News
posted2018/09/25 08:00
プロ9年目の今季も離脱前まで打率.287、20盗塁とリードオフマンの役割を果たしていた。
ケガゼロを願って変えた背番号0。
しかし、翌日の試合前のロッテベンチに荻野の姿はなかった。
追って球団から「右手第二指基節骨骨折」全治2カ月のリリースがされる。その報を聞いて愕然となった。
数日後、ロッテ浦和球場でリハビリに励む荻野に会うと、さすがに残念そうな表情を浮かべていた。
「オールスターも確かに出たかったというのはありますけど、それよりも今年は(シーズンの)最後まで行けるかなと思っていたので、そっちの悔しさの方が強かったですね」
2016年のオフに荻野は「怪我がゼロになるように」と願いを込めて、背番号を「4」から現在の「0」に変更した。
しかし、昨年は大きな怪我こそなかったものの、極度の打撃不振に陥って2度にわたる二軍降格を経験する不完全燃焼のシーズンを送った。
仕切り直しの今季は78試合に出場し、打率2割8分7厘、2本塁打、25打点。前半戦だけで盗塁も20個決めて、初の盗塁王のタイトルも狙える位置にいた。
京セラドーム大阪では、外野後方の飛球を追って顔面から壁に激突。それでも「試合に出られる状態なら」と痛みをこらえグラウンドに立ち続けた。それだけ今季にかける想いが強かったのだ。
「なんとかシーズン最後に上(一軍)に合流出来ればと思って今、リハビリに励んでいます。まだまだこんな状態ですけどね」と、怪我をした右手中指辺りをチラリと見ながら、無理にでも気持ちを前に向ける。気丈に振舞う彼の姿に心が熱くなるのを覚えた。
緊張する少年に優しく声をかける。
そんなとき、選手使用の駐車場に1人の少年が迷い込んだ。
見たところ未就学児、年齢は4~5歳といったところだろうか。一緒に来た親とはどこかではぐれてしまったようで、周りをキョロキョロとしている。
「どうした? 僕? ここは選手や関係者以外、入って来ちゃいけないところだよ」
少年に近寄って優しく声をかける荻野。緊張でドギマギとしている少年の様子が気になったか、すぐさまこう続けた。
「サイン? サインが欲しいの? 誰のサインが欲しいの?」
すると、少年はか細い声で「荻野選手です」と答える。
それを聞いた荻野も優しくこう返した。
「そっか分かった。じゃあ、俺の方からあとでそっちまで行くから、少しだけ外で待っててくれる?」
「分かった」
少年はそう言って、その場から離れていった。