棚橋が柴田と入場した瞬間……。

　この夏の主役は飯伏幸太。多くの人が、そして飯伏自身もそう思った次の瞬間、館内の空気は一変する。

　Aブロックを勝ち上がってきた棚橋弘至が入場してくると、そのセコンドには長期欠場中の柴田勝頼が付いていたのだ。

「棚橋さんのセコンドに柴田さんが付いているのを見た瞬間、正直に言って『やられた！』と思いましたね。『ああ、これは“終わった”かもしれない』とまで思いました。

　それまでファンも僕を後押ししてくれていたと思うんですけど、棚橋さんと柴田さんという新日本生え抜きの2人が並び立ったとき、僕とケニーは一瞬にして“外敵”になってしまったような空気を感じたんですよ。新日本プロレスvs.外様という図式を、棚橋さんによって作られてしまったんです」

若干飲まれたんじゃないかなと。

　棚橋の“仕掛け”により一瞬にして変えられた潮目。飯伏は、ゴング前に先手を取られてしまった。

「だから、あの時点で若干飲まれたんじゃないかなと思うんですよ。僕はどんな試合でも、自分側のプロレスに引き込む自信があったんですけど、『これはできないんじゃないか』と、初めて思った瞬間でした。

　もう最初から棚橋さんにペースを握られてしまって。その空気感は試合の中で徐々に徐々に覆せたかなと思ったんですけど、結局、最後まで自分に引き戻すことはできませんでしたね」

　飯伏は今回の棚橋戦を「いま思うと、“アスリート・プロレス”vs.“棚橋プロレス”の闘いだったんじゃないか」と語る。

【次ページ】　“棚橋プロレス”という極致。