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ボルトのサッカー挑戦が呼ぶ波乱。
陸上界は広告塔を失ってしかめ面?
posted2018/09/23 17:00
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
Getty Images
8月31日、練習生として合流していたセントラルコースト・マリナーズが組んだ親善試合のことだ。残り約20分の場面。背番号95をつけたウサイン・ボルトが笑顔でピッチに入ると、大歓声と花火がボルトを迎え入れた。
左サイドのトップに入ったボルトは、ヘディングでシュートを狙う場面のほか、何度か得点チャンスがあったものの、味方からの鋭いパスに合わせることができなかった。
試合後のインタビューでは「ちょっと緊張したけれど、ピッチに入ったら緊張はすぐに解けた。今日は得点に絡めなかったけれど、スピードやフィジカルコンディションを上げていきたい」と話していた。
これまでプレーした親善試合とは異なり、簡単にシュートを決められずプロとしての厳しさも味わった。ボルトならこれくらい走れるだろう、というチームメイトの期待がこもったパスに対しても届かず。サッカー独特の動きにはまだ体がついていかない様子だった。
得点はできなかったが集客には大きく貢献。プレシーズンの試合にもかかわらず、平均よりも2500人多い、1万人近くの観客がボルト見たさに集まった。
陸上からサッカーへ転身の理由は?
「ボルト、プロサッカー選手、目指すってよ」
そんな噂を耳にしたのはいつだっただろうか。昨年8月ロンドンで行われた世界陸上で陸上から引退。長年痛めていた左大腿部を負傷し、有終の美を飾ることはできなかった。
体力的に限界なのでは、そう思っていたファンや関係者には、ボルトのサッカー挑戦は驚きだった。
「サッカーが大好き。サッカーは人々を1つにする力があると思う。スタジアムでの高揚感、ファンの歓声などもすばらしい」
今年3月には香川真司が所属するブンデスリーガのドルトムントの練習にも参加したが、ボルトのスポンサー「プーマ」CEOが同チームの理事をしている関係もあり、タイアップ感があったのは否めず。ワールドカップ前に開催されたサッカー界の往年のスターたちとの親善試合も、ボルトのレベルを測るには不十分なものだった。