プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
悪者チャンピオンとダヴィデ=アポロ。
棚橋弘至とミケランジェロ、肉体の夢。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2018/09/19 11:30
ミケランジェロの石像とはり合うように己の筋肉美を見せつける棚橋弘至。
「プロレスのチケット代の半分は筋肉だと思え」
この「コントラポスト」というポーズ。片足に重心を置くことで腰が傾き、筋肉が強調されるため、肉体美を表現するための理想のポージングと言われてきた。
戦いへの緊張感とリラックスの双方を表現しているというその姿を、棚橋は「スキだらけ」だと見た。
ぐるっと回りながらダヴィデ=アポロに視線を投げていた棚橋は浮かした右足が気になったのか「さっと足を取ってドラゴンスクリューに行けますね」と笑った。
「昔、猪木さんが“プロレスは格闘芸術”という言い方をされていました。筋肉は、プロレスラーの魅力のひとつとしてあるんですね。
ボクが新日本プロレスに入門した時に、すでにコーチは引退されていた山本小鉄さんに、いいか、棚橋。プロレスのチケット代の半分は筋肉だと思え、って言われたんです。しっかりとしたコンディションを作り、筋肉を大きくしろよ、と。
その言いつけを守ってきたら、ボクはここにたどり着きました」
「自分の理想の肉体像を追い求めて……」
棚橋は筋肉の話を続けた。
「ダヴィデ=アポロは鍛え甲斐がある。筋肉は鍛えることで、大きくなるものです。でもその形や付き方は人それぞれなので、ひとりひとりが違った体の形になります。ダヴィデ=アポロの場合は、西洋人特有のタイプで、大胸筋がやや上めについている体です。鍛えたらものすごくいい体になりますよ」
5世紀の時を経たミケランジェロのダヴィデ=アポロと出会ったことで、棚橋の心の中に新たな刺激が起きたのかもしれない。
「いつまでも自分の理想の肉体像を追い求めていきたい」と棚橋は少年のように目を輝かせた。