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長谷部誠が中田英寿に伝えたいこと。
「だから、書いといてください!」
text by
了戒美子Yoshiko Ryokai
photograph byRyu Voelkel
posted2018/09/18 15:00
長谷部誠は決して安易な言葉を発しない。その一言一言に、彼が積み重ねてきた思想の一端が見える。
「国っていう概念を取り払いたい」
予想外の話は、他にもあった。長谷部はドイツのクラブに在籍した歴代日本人選手の中で、最も長くプレーしている。ピッチ外の所作や言動も自然だから、よっぽど欧州での暮らしが肌に合っているのだろうと推測していた。ところが本人は、それを否定する。
「確かに海外の中では、ドイツは自分に合ってるかな。だけど、今でも『ドイツと日本とどっちが住みやすいか?』と言われたら、間違いなく日本だと思います。食事もおいしいし、友達も多い。いろんな部分で日本は清潔だし、暮らしやすい。
でも、実際にサッカーがあり、総合的に考えたときには、今は間違いなくこっちが自分には合ってると思います。もちろん現役をやめてからも、こっちに残ることは考えられる。でも、日本でも暮らしたいなとも思うし。まあ、住むのはどこかってはっきり決めなくても、行き来すれば良いのかなと。
正直、そういう“国”っていう概念を、自分の中で取り払いたいなという気持ちはありますよね。別にヒデさんじゃないけど、家持ってなくてもいいじゃんみたいな」
ひとり旅が好きだというのは、独身時代の有名な話ではあるが、「家なんてなくてもいい」という自由人タイプだとは思いもつかなかった。
選手を見極める目は「まったく自信がない」。
ここ数年はフランクフルトとの契約を更新するたびに、「引退後はドイツで指導者のライセンスを取るらしい」「クラブ運営を学ぶ予定だ」と噂が流れる。ただ、本人は具体的にはノープランだと強調しつつ、指導者としての資質については首をかしげる。
「監督とかコーチとか、本当に向いているのかなってよく思いますよ。自分では、『この選手、いいな』と思った選手がなかなか上に行かなかったりとかね。
ニコ(・コバチ、フランクフルト前監督)なんてすごいなと思いました。今季からドルトムントに行ったマリウス・ボルフを最初に見たとき、僕は『えー、試合に出して大丈夫?』みたいに思っていたのに、あっという間に伸びましたからね。
エディン・ジェコやマリオ・マンジュキッチもそうでしたけど、ああやって活躍している選手の急激な伸び方って半端ないんです。そこを見極める目は、まったく自信がないです。ジェコなんて、一緒に練習していて『お前だけはシュート打たないでくれ』って思っていましたからね(笑)」
自虐的なエピソードを話す様子は楽しげだった。とはいえ、まだ心配しなくても、スパイクを脱ぐのはもう少し先のことだろう。