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元J守護神・榎本達也が驚きの決断。
なぜブラインドサッカーに転向?
posted2018/07/30 08:00
text by
朴鐘泰Park Jong Tae
photograph by
Shiro Miyake
ブラインドサッカーへの転向を表明した。なぜこの挑戦に踏み切ったのか。
その背景に迫る。
Number951号(2018年4月25日発売)の特集を全文掲載します!
勝つには勝った。でも、そろそろ手を打たねばならない。2016年11月、ブラインドサッカー日本代表はドイツで開催された国際親善大会に出場し、3勝2分で優勝した。この大会では翌年から導入される新ルールが適用された。そのひとつが、従来縦2m×横3mのゴールサイズが縦2.14m×横3.66mと大きくなったこと。世界王者ブラジルを筆頭に強豪国ではGKの大型化が進んでいる。高田敏志監督は言う。
「ブラサカのGKは縦2m×横5.82mのゴールエリアから出ることができません。アイマスクをつけた4人のフィールドプレーヤー(FP)は転がるボールから出る音と、監督やガイド(敵陣ゴール裏に待機)、目が見えるGKの声の情報を頼りにゴールへと向かいますが、いくらFPは目が見えていないとはいえ、GKからしたら2mほどの至近距離から放たれるシュートを止めるのは至難の業です。
その上、ゴールが大きくなった。代表チームは2020年に向けて攻撃志向を掲げており、失点のリスクが高まる中で、ビッグセーブで失点を防げるGKが必要でした」
代表正GKの佐藤大介は身長170cmである。だからといって佐藤がダメ、というわけでは決してない。
「佐藤は日本が誇る世界レベルのGK。でも、万が一佐藤に何かあった時のことも想定しなきゃいけない。ルール改正に対応するため、体が大きく、佐藤に匹敵する実力を持ち、なおかつブラサカに適応できるGKを探し始めました」
榎本は依然、腑に落ちなかった。
なぜ僕なんですか? 高田と会った榎本達也は、挨拶を終えて早々に本題を切り出した。ほんの数日前のクリスマスに、'16年シーズン限りでの現役引退を発表したばかりだった。代表監督直々の説明を受けても、榎本の意向は変わらなかった。
「無理です。FC東京普及部コーチという新しい仕事をしながらブラインドサッカーをやれるほど、僕は器用ではありません」
「20年もプロでサッカーやったやつは、大体みんなそういうやつ。だから大丈夫」
何が大丈夫なんだろう? 榎本は依然、腑に落ちなかった。ましてや、真剣に東京パラリンピックを目指している選手たちに対して、何もしていない自分が代表選手になるのは失礼に値しないか、とも思った。