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イチローも「地味すぎて……」。
平野佳寿の“滋味”溢れる大活躍。
posted2018/07/19 08:00
text by
木崎英夫Hideo Kizaki
photograph by
AFLO
6月の終わりのことだった。マリナーズの会長付特別補佐になったイチローが苦笑交じりに言った。
「地味すぎてわかんない……」
ダイヤモンドバックスの平野佳寿投手について、そうとぼけた直後、にわかに興味津々の表情に変わった。球団新の25試合連続無失点が懸かる古巣オリックスの後輩の活躍を伝えると「本当ですか! 最速は何マイル? 球種は? 上原みたいなタイプ?」と矢継ぎ早に返してきた。
昨年12月、神戸市内でイチローは平野と遭遇し、「メジャー行くんだって? 頑張ってね」の言葉を交わしていた。
平野は7月4日のカージナルス戦で一発を浴び、5月6日から続いた無失点記録は潰えた。上原浩治(現・巨人)の持つ日本投手最長の連続無失点記録「27」まであと一歩及ばなかったその試合後、2カ月の快進撃に一区切りを付けるようにこう結んだ。
「いつも騒がれない男だったのに皆さんに騒いでいただいて光栄でした。また皆さんからプレッシャーをかけてもらえるように頑張っていきたい」
「騒がれなかった男」の底知れぬ力量。
先発や守護神ほどの注目度はない中継ぎで「騒がれなかった男」は、勝利への流れをつくる重要な場面で起用され、見事な投球を披露し続けた。その奮投のほとんどを見届けた筆者は、投手としてまた人として、底知れぬ力量を感じさせる平野佳寿という男を知った。
風貌にも派手さのない“地味”な34歳のルーキーは、“滋味”の溢れる投球で躍動している。
カットボールやツーシームという「動くボール」全盛の時代にあって、平野は順回転のフォーシームとフォークボールで強打者たちに挑んでいる。なぜか。
「キャッチャーからこれしかサインが出ないんですよ」
妙味のある答えを期待していただけに、いささか拍子抜けした。
ダイヤモンドバックスの中継ぎ陣は、全体練習が始まる前にアップとキャッチボールを行う。その終了直後に、平野はケルビン近藤通訳を座らせて軽めの投げ込みをするが、そこではカーブとスライダーを数球混ぜている。これらの球種を「いつでも投げられる自信がある」と平野は言う。
であれば、その気持ちをキャッチャーに伝えればよさそうなものだが……。