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女子マラソンの新星・松田瑞生。
動物的なオーラと底抜けの明るさ。
text by
柳橋閑Kan Yanagibashi
photograph byAi Hirano
posted2018/07/10 08:00
東京五輪への出場権は熾烈を極める。松田瑞生も有力候補の1人としてMGCに臨もうとしている。
気持ちよく走れた初マラソン。
ところが、いざスタートしてみると、練習、カーボローディング、レースプラン、地の利、すべての要素が完璧に噛み合った。
前半はペースメーカーの設定通り、5km17分できっちり刻んでいく。途中、ライバルの安藤友香が給水を取り損ねたのに気づくと、自分のボトルを渡す余裕もあった。25kmで高校の後輩、前田穂南が先頭集団から飛び出したときも、落ちついていた。
「監督に30kmまでは我慢しろと言われていたから、ゆっくり行ってたんです。彼女が出たときも、負ける気はまったくなかったですね。『あとで行くから待っててね~』ぐらいの気持ちでした」
27kmで安藤が脱落すると、松田は単独で前田を追い始める。そして、31kmの手前でキャッチアップ。そのまま抜き去り、みるみる差を広げていく。158cmの小さな身体が大きく躍動する。30kmから35kmのスプリットは一気に16分19秒まで上げた。
「上げた感覚はないんですよ。私的にはただ気持ちよく走っていただけなんです。レース前、有森裕子さんにカーボローディングがきついという話をしたら、『30kmから楽になるよ』と言われたんですけど、ほんとにドンピシャで来ましたね」
初マラソンで2時間22分44秒も冷静に。
終盤は雪が舞い、寒さでやや動きが鈍ったものの、地元の大声援が背中を押してくれた。ヤンマースタジアム長居に駆け込むと、ガッツポーズでゴール。待っていた母親の明美さんと抱き合って喜んだ。
明美さんは鍼灸師。高校時代から試合の前にはいつも身体を診てもらってきた。松田がここまで大きな故障をせずに来られたのは、その支えがあったからこそだ。
優勝タイムの2時間22分44秒は、日本女子の歴代9位、初マラソンでは歴代3位の好記録だ。MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)本大会出場の権利も獲得し、一躍、東京五輪の有力候補となったが、師弟ともに状況を冷静に見据えている。
「ここまではすべてが順調に噛み合って、うまい具合に成功してきました。でも、これから失敗もするでしょうし、いろんなことが起きてくると思います」(林監督)
「注目していただけるのはうれしいんですけど、そこで自分を崩さないようにするのに精一杯の部分もあります。あくまで自分は自分。モチベーションを変えずにやっていきたいと思ってます」(松田)
今季は日本選手権の1万mで連覇をめざし、さらに、高速コースのベルリンマラソンでタイムを狙っていくつもりだ。