オリンピックへの道BACK NUMBER
「怖い怖い」から「ガツンと本気」に。
モーグルの伊藤みき、もう一度挑戦!
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2018/07/08 08:00
トリノ、バンクーバーと五輪での活躍を経て、ソチでは怪我で無念の棄権に。北京冬季五輪で、3度目の正直となるか。
「勝ちに行かず、守りに入っていたんです」
出場できなかった悔しさを心底感じたのはシーズンが終わって、ひと月ほどが経った頃だった。
「本当に出られなかったんだな、逃したんだなと思いました。オリンピックに向けて4年間やっていたのに、本当に駄目だなと思いました」
何がよくなかったのかをあらためて考えた。行き着いたのは、自身の姿勢だった。
「出られなくても自分の人生が終わるわけじゃないと思ってしまう弱さがありました。12位以内を狙いに行ったことも逃げ腰だったと思う。勝ちに行かず、守りに入っていたんです」
もう1つ、気づいたことがある。
「前まではコーチに『ここが駄目だったね』と言われても、でもあそこはよかった、と考える方でした。なのに、1つ指摘されると、ここも悪かったしあそこも悪かった、と考えてしまって、どんどん負の連鎖を作っていた。ソチで、自分が作り上げた作品が最後、砕け散ったみたいな感覚があったので、怪我をしないということも含め、今回は完璧に作り上げようという思いが強すぎました」
「周りがあっての自分なのに……」
バンクーバーとソチは、ある意味、約束された場所だった。それだけの成績を残していたからだ。しかし今回は、最後まで出場権を目指す状況にあった。ましてやソチで怪我による挫折を味わった。それらによって、知らず知らずのうちに追い込まれていたのかもしれない。
暑さも厳しくなり、新しいシーズンへと皆が向かう今、こう思う。
「競技への気持ちは瞬間瞬間で変わるので、そのときの気持ちを人に聞いてもらっても、次の日にはすっかり変わっていたりする。でももし自分に声をかけるとしたら『もうちょっと続けたらいいんじゃない』と言うと思いました。
なんでそう思うんだろうと考えたとき、一生懸命愛情をもって育ててくれた家族や、サポートしてくれたいろいろな方々のことが浮かびました。周りがあっての自分なのに、全部を手放したらその時点で死んじゃうというか、負けて終わるのはいやだと改めて思ったんです。
すぐに北京へと切り替えるのは難しいですが、この1年が自分にとって勝負になるんだろうなと思っています」