オリンピックへの道BACK NUMBER
「怖い怖い」から「ガツンと本気」に。
モーグルの伊藤みき、もう一度挑戦!
posted2018/07/08 08:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Shino Seki
昨シーズンを振り返る彼女の目から、涙が止まらなかった。
「生活の中に自然にあるものがするりと手の中から抜け落ちた感じでした。本当に近くにあったものをつかみ損ねたという感覚で、手の上で泳いでいた魚を握ろうとした瞬間、逃げられてしまった感じに近かったですね」
フリースタイルスキー・モーグルの伊藤みきは、平昌オリンピックの代表になれなかった思いを、こう表現する。
伊藤は日本モーグル界の主軸として長年にわたって活躍してきた。世界選手権では3度表彰台に立ち、2006年のトリノオリンピックに高校3年生で初出場を果たすと、バンクーバー、ソチも代表入りを果たした。しかしソチではシーズン開幕直前に負傷。懸命に治療し、公式予選に臨んだが、そこでも負傷し、欠場を余儀なくされた。
その後、手術とリハビリを経て、ソチでの雪辱を期して、4度目のオリンピックを目指してきた。
だが、オリンピックイヤーは、いくつもの思わぬ事態に直面することになった。
「怖い怖い怖い、絶対にできない、無理」
昨年10月末、日本代表合宿と試合参戦のため、オーストリアに遠征したときのことだ。
「モーグルコースを通して滑ることができなくなってしまったんです。初めてのことでした。
ミドルセクションを滑っていて、無理だ、できない、やめたいという気持ちがすーっと入ってきて、怖い怖い怖い、絶対にできない、無理、みたいに自分に呪縛をかけてしまって……」
考えた末、第2エアに対する怖さからなのではないかと気づくと、帰国後、スケートパークに通ってインラインスケートに取り組み、克服に努めた。第2エアは、ソチのとき怪我を負った場所だった。