ロシアW杯PRESSBACK NUMBER
メッシに笑顔と切れ味が戻った!
「アルゼンチン人でいるのは最高」
posted2018/06/27 17:30
text by
藤坂ガルシア千鶴Chizuru de Garcia
photograph by
Getty Images
ロシアW杯グループリーグ最終戦で、ナイジェリアに苦戦を強いられながらも辛勝したアルゼンチン。
なんとか決勝トーナメント進出を決めた試合後、キャプテンのリオネル・メッシはスタジアムを埋め尽くした大勢のサポーターへ拍手を送った。そして、会場内に響き渡った「メッシに導かれてウイニングランをしよう」の大合唱に聴き入った。
その顔つきは実に穏やかで、幸福感と満足感に満ちていた。
「神は僕たちの味方だ。僕たちアルゼンチンを敗退させるわけがない。こういう勝ち方は本当に素晴らしい」
ミックスゾーンでは笑顔でメディアからの取材に応え、グループステージ敗退の悪夢を回避した安堵感と達成感を示した。5日前、クロアチアに敗れたあと、マイクから逃げるように無言でロッカールームへ引き揚げた姿とは大違いだ。
メッシは明らかに様子がおかしかった。
メッシはナイジェリア戦の直前まで、周囲が心配するほど意気消沈していた。
口数が少なく、自由時間に仲間たちが団らんしているときも部屋に閉じこもっていた。宿泊先のホテルに大勢のサポーターが押しかけてバンデラッソ(決起集会)をしたとき、何人かの選手たちは感謝の気持ちを表わすためにホテルの玄関で一緒に応援歌を歌ったが、そのなかにメッシの姿はなかった。
練習のときも食事のときも、いつもの明るいメッシではなかった。
チームスタッフが気を遣って声をかけても、必要最小限の答えが返ってくるだけ。密着取材していた各メディアの番記者たちも、「メッシがこのような状態ではナイジェリアに勝てる気がしない」と、悲観的な見方をしていた。
クロアチア戦でのメッシは、国歌斉唱のときから様子がおかしかった。前奏に合わせてサポーターがチャントを奏でるなか、うつむきかげんで何度も額に触れる。動揺と困惑に支配されたキャプテンの心理状態が、カメラを通じて世界中のサッカーファンに晒されることとなった。