セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
奇跡のセリエA復帰を祝ったが……。
パルマに待っていたSNSの落とし穴。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2018/06/27 10:30
伝統ある「パルマFC」は財政難を理由に売却され、'15年6月に消滅。その後、「SSDパルマ・カルチョ1913」としてセリエD(4部)から再出発した。
ルカレッリ「おいおいマジかよ?!」
その日まで気にも掛けなかったフロリアーノという小柄なFWの名前を、パルマ・ファンはこれから長く記憶に留めることだろう。
89分、彼がフォッジャに2-2となる同点弾をもたらし、パルマに2位の座をプレゼントしてくれた後のことをルカレッリはよく覚えていない。
まさか、という思いと3年間の記憶と感情がごちゃ混ぜになり、「おいおいマジかよ?!」と声を嗄らした彼は誰彼構わず抱き合いながら、ファンと歓喜に飛び跳ねた。
4部アマリーグから3年連続昇格でセリエAへ。
パルマは、イタリア・サッカー史上空前絶後の偉業を完遂したのだ。
パルマの町ではチームバスの帰着を前に、黄色い花火の馬鹿騒ぎが始まっていた。
昇格報告イベントで、引退を発表。
町をあげての馬鹿騒ぎが落ち着いた頃、日をあらためて本拠地「タルディーニ」で昇格報告イベントが行われた。
そこで主将ルカレッリは自身の引退を発表した。
プロデビューして丸20年、地方クラブで地道にキャリアを重ねてきた。セリエAという檜舞台で、名門パルマのキャプテンとしてイブラヒモビッチやイグアインといった世界中の一流ストライカー相手に体を張ることが誇りだった。
3年前に起きたクラブの破綻によって、チームメイト救済と新クラブ創設の陳情のために地方裁判所へひとり通った。
アマリーグの芝のないグラウンドに原点を思い出し、3部昇格後の苦戦と大幅な路線転換に褌を締め直した。
キャリア最後の勝負と決意して臨んだ昨シーズンは手術した膝と腫れた足首で戦い抜いた。
照明が落とされたグラウンドの静寂の中で、小さく照らされたルカレッリの、マイクを持つ手と声が震えていた。
10年前の入団以来、酸いも甘いもともに噛み分けたパルマの町の一人ひとりへ届くように。
ルカレッリは静かに、囁くように告げた。
「俺たちは、あなたたちは、今、ようやく帰ってきました。言わせて下さい。“Bentornati in Serie A”。パルマよ、おかえりなさい」
クラブは、ルカレッリがつけていた背番号6を永久欠番とすることを発表した。