かと思えば、セーフティバントも使う。

　ものすごいライナーがあっという間に左中間を抜いたと見えた瞬間、あっという間に二塁に達していた辰己涼介のスピード。その快足をもう一度見せつけてくれた第4打席に、もう一度唸らされる。

　ライトからリリーフのマウンドに上がった奈良学園大・菅田大介（3年・187cm80kg・左投左打・京都共栄学園）のフォームは、テークバックが小さく体の向こうにボールが隠れて、先発・摺石よりさらにリリースが見にくい。

　そのスライダーと137キロの速球で、続けて猛烈な空振りを喫した辰己涼介が、次のボールを一転、三塁線にセーフティバントの“変わり身”だ。

　こいつ手強し！　と見て、攻めの手法をサッと切り替えた潔さだったのか。それとも、最初から転がして……の魂胆ありで、三塁手のポジショニングを後ろに下げさせるための“三味線”としてのフルスイングだったのか。

　それにしても、一塁ベースを駆け抜けるそのスピードのすごいこと。久しぶりに、風のようなヤツと出合った。

　それほどの足があるのなら、チェンジになったら快足飛ばして真っ先にダグアウトに戻り、自分が真ん中になって円陣を主催してもいいかもしれない。辰己涼介はキャプテンなのである。

　あえてケチつけようと思っても、それぐらいのことしかケチのつけようがない。

「いいな」を超える「すげえな」。

　プロでいえば、西武・秋山翔吾から折り目正しさを引き抜いて、その代わりに、何をしでかすかわからない“奔放さ”を注入したような……って、ちょっとわかりにくいかな。

　大学選手権に「この選手、いいな」と感心するような選手はたくさん出場している。そんな逸材揃いの大学選手権でも、「こいつ、すげえな」、こちらの胸をブルブル震わせてくれる選手はなかなかいない。

　感動させてくれるヤツ、出て来い！

　今年の「大学選手権」には、そんな“感動系”が、ほかにも何人も出てきてくれている。