マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
スカウト100人集結の「持ってる男」。
ドラ1候補、辰己涼介の肩・足・力。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2018/06/19 08:00
立命館大の辰己涼介は、足と肩を筆頭にすべての能力がハイレベル。野手ながら1位候補になるのは理由がある。
敵側スタンドもうなる凄まじい肩。
試合前のシートノック。
立命館大・辰己涼介中堅手(4年・178cm68kg・右投左打・兵庫・社高)のバックホームにドームが沸いた。
正面のゴロを捕球するなり、辰己の全身がしなる。人の頭ほどの高さの返球がうなった。ライナーのまま、捕手のミットを叩く。
三塁側・立命館スタンドがドッと沸いたのはともかく、“敵”のはずの奈良学園大スタンドまでが「おお……」とため息まじりで見とれていている。
実戦でその鉄砲肩を披露する場面こそなかったが、これだけの伸びと精度と敏捷性を見せつけておけば、二塁走者の本塁突入意欲をくじくことができ、三塁ベースコーチの選択肢としても、「センター方向の打球で本塁突入」は消える。シートノックの一投だけで、“抑止力”は機能するはずだ。
打つ方でも、1死二塁で迎えた最初の打席。絶好の先制機に、ストレートの四球を選んで一、三塁にした。
奈良学園大の先発左腕・摺石達哉(1年・170cm69kg・左投左打・福井工大福井高)が、打者にわからないようにかすかに動かし、滑らせる誘い球にいっさい乗ってこなかった。
スイングだけ見れば柳田悠岐。
辰己涼介の怖さを実感させてくれたのは第3打席だ。
前の打席で、リリースポイントの見づらい左腕の139キロを、そこまで振り回さなくても……のメチャ振りでスイングパワーのMAXを見せてくれた辰己が、今度は“技術”を見せた。
左腕の外の高め。顔の高さほどの速球に見えたそのボールに、がっしり踏み込んでおいてバットをかぶせるように振り抜いた打球が、ライナーとなってあっという間に左中間を抜いた。
軽く合わせてきれいに運んだ品のいい打球じゃない。左中間に向かってたたき返した凶暴な打球だ。
ユニフォーム姿はスリムでも、インパクトでの瞬発力は“バカぢから”に近い。前の打席の空振りだって、スイングだけ見れば、ソフトバンクの柳田悠岐だ。