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アメフトは暴力的な競技ではない!
伝説の横国-法政戦の証言で考える。
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph byKyodo News
posted2018/05/29 11:00
今回の事件の問題が、すなわちアメフトという競技の問題なわけではない。
時にギャンブルを仕掛け、時に堅実に。
石原も、当初の予定通りの接戦に持ち込めたことで、手応えを感じていたという。
「勝つならここしかないと思った。当時の監督に『もうここまで来たんだから、やるだけやったら負けてもいいでしょう』と言って、通常は絶対にやらない4thダウンのギャンブルも連発しました。短いヤードを確実に進みたいときはガチガチにインサイドを固めて少しずつ、少しずつ進みました。それが法大の焦りを生んだんだと思います」
そうして試合終了間際まで、時間いっぱいに使ってもぎ取った逆転のタッチダウンが、そのまま決勝点となった。
誰が正しいかではなく、何が正しいか。
ではなぜ、この年の横国大は絶対王者を倒すことができたのだろうか。
田島はこう振り返る。
「やっぱりチームとしてのまとまりがあったと思います。この代の上級生は『怖かった』と冗談交じりに後輩に言われますけど、それは練習中の話。当時から雑務やグラウンド整備は上級生がやっていて、下級生に雑用はさせないシステムでした。練習が終われば飯もよくみんなで食べにいったし、一体感がありましたね。
石原さんたちコーチ陣とも、時にはケンカもしましたけど、それだけ色々とコミュニケーションが取れていたと思います。確かに練習は厳しかったです、本当に。ただ、だからこそ試合当日も焦ることなく、心に余裕を持てた。終盤の勝負どころになっても隣のチームメイト、そしてコーチたちを信じて最後までやり抜くことができました」
石原も、かつての教え子に繰り返し伝えてきたことを思い出す。
「“誰が正しいか”ではなく“何が正しいか”をしっかりと考えなさいという話をチームにし続けてきました。
言った人の立場を考えるのではなく、その内容を自分で咀嚼する。そうしてどうすれば上達するのか、どうすれば成長するのかを考えてほしいとは思っていました。その上で選手が我々指導者を信頼してくれたからこそ、ああいうアップセットがおこせたんだと思います」