草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
その瞬間、竜も虎も1つになった。
「松坂の22球」が起こした奇跡とは。
posted2018/04/26 07:00
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph by
Kyodo News
メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
123球を投げた翌日以降も右肩に異変なし。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。しかも、最終スコアは1-2。つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100~110球だから、交代してもおかしくないところだ。そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。