サッカー日本代表 激闘日誌BACK NUMBER
ジャーナリスト戸塚啓が目撃した激闘の記憶
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byKYODO
posted2018/03/23 10:00
前半22分、城彰二のシュートはオフサイドでノーゴ―ル。10分後、ウズベキスタンに先制点を奪われる。
熱気というより、殺気が漂うスタジアム。
日本がゴールに迫れば、すぐにウズベキスタンが押し返す。そのたびに、スタジアムが沸き上がる。メインスタンドの上層──といっても、一般客と同じ普通の席だ──に座っている僕は、居心地の悪さを感じていた。
剥き出しのコンクリートが客席に段差を作っているだけのスタジアムには、それまで感じたことのない熱が立ち込めている。熱気というより殺気に近い。
ウズベキスタンのゴール裏には、応援を統率するコールリーダーがいるわけではない。身体を押し込めるようにスタンドを埋め尽くす男たちが、ボールの行方に合わせてうめき声をあげるだけなのだ。その息遣いはあまりに生々しくて鋭くもあり、僕の身体に突き刺さってくるようだった。白いユニフォームを着たウズベキスタンの選手たちも、観衆の反応を力にして動きのキレを増している。
ウズベキスタンの先制点に観衆が……。
32分、川口の守るゴールが破られた。CKの流れから、ミドルシュートを叩き込まれた。
地鳴りのような、爆音のような歓声が一気に湧き上がり、すぐにスタンドを高速で駆け巡っていった。1列前に座っているウズベキスタン人の観衆が、僕の顔をニヤニヤしながら覗き込んでくる。どうだ、見たか、という挑発以外の何ものでもない。
サッカーのスタジアムで初めて、僕は暴力的な衝動に襲われた。勝ってほしい、絶対に勝ってほしいと、心の底から願った。
ここから先の記憶は定かではない。ページがバラバラになりかけた古い取材ノートを読み返しても、試合の流れを思い返す手立てにはなってくれない。
それでも、90分に同点弾が決まった瞬間は、鮮明な映像として頭のなかに保存されている。井原正巳のロングボールを呂比須ワグナーが競り、詰めていたカズも相手DFも触れなかったボールが、GKの意表を突くようにゴールへ転がっていった。