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「スポーツは戦争のようなものだけど」
メドベデワとザギトワの本当の関係。
posted2018/03/09 11:30
text by
栗田智Satoshi Kurita
photograph by
Asami Enomoto/JMPA
ドーピング問題により国としてではなく個人資格での参加となった今回の平昌五輪。ロシアはメダル獲得数で伸び悩み、国内人気は今ひとつ盛り上がりに欠けるものだった。その流れを最後に変えたのが、アリーナ・ザギトワ、エフゲニア・メドベデワによる金銀メダル獲得だった。
五輪閉幕後の現在も、筆者のいるロシア国内では、2人の戦いぶりや、それにまつわるさまざまなエピソード、インタビューなど、「美しき氷上の戦い」として連日のように取り上げられているが、そこにメダルの色の差はまったく感じられない。
むしろ銀メダルという結果に終わりながら気丈に振る舞い続けたメドベデワの評価のほうが高まっている。
とくに印象的に受け止められたのが、メドベデワのフリーの演技からの一連の流れだ。
「練習して、練習して、練習して……」
最終滑走のメドベデワのフリーの得点は奇しくもザギトワと同じ156.65点。合計得点でザギトワにわずか1.31点及ばなかった。
キスアンドクライでスコアを見届けると、メドベデワはコーチのエテリ・トゥトベリーゼにこう語りかけた。
「できることはすべてやりました。今日の勝利のために私は、練習して、練習して、練習して……」
演技直後の正直な心のうちだっただろう。メドベデワはこの日のために他の誰よりも練習に励んできた。そのことは同じ練習仲間であるザギトワも、2人をともに指導するトゥトベリーゼも間違いなく認めるところだ。シーズン途中に見舞われた右足の怪我という試練をも乗り越え、持てる力を最後まですべて出し切った。
しかし、結果は銀メダルだった。
もちろん満足などできるはずもない。だが、メドベデワはそこで肩を落とすようなことはしなかった。何度も頬を伝う涙を拭き、笑顔でカメラに手を振ってみせた。