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メドベデワ、ザギトワを生んだ
ロシア“虎の穴”潜入取材の舞台裏。
text by
栗田智Satoshi Kurita
photograph byOlga Skorupskaya
posted2018/02/08 08:00
バレエやダンスなど、スケーティングの技術以外の演技レッスンにも、多くの時間が割かれているサンボ70。
「言っとくけど、撮影はだめよ。準備してないから」
緊張して待つこと4、5分、はたして彼女は目の前に現れた。
眉間にしわを寄せ、機嫌が悪いときの見本のような顔をしている。
そして椅子に座るなり、髪をかき上げ開口一番、「言っとくけど、今日は撮影はだめよ。準備してないから」 とカメラマンに宣言する。そのオーラに気圧され、カメラマンも私も黙ってうなずくしかない。
あとで聞くと、ヘアスタイルやメイクなどいろいろあるらしい。そこはやはり女性なのだろう。
時間が限られているので、単刀直入に、フルスタリヌィのコーチになった経緯、指導スタイルはいつ確立されたのか、メドベデワやザギトワの育成エピソード、選手とコーチそれぞれの目標などなど、矢継ぎ早に質問を浴びせていったのだが、それでも嫌な顔もせずひとつひとつの質問に丁寧に答えてくれる。
あれ、けっこういい人なんじゃ……。
やっぱりいい人? かなりのお茶目さん?
しかし、こちらが黙った一瞬の間断を突き、「じゃあ、もういいでしょ?」と立ち上がりインタビューを切り上げようとする。
たしかにもう5分以上経っているのだが、あわてて引き止め、これが最後の質問だからとなだめると、「わかったわよ、仕方ないわね」とぶつぶつ言いながらも座り、またしばらく話し込んでくれるのだった。
やっぱりいい人なんじゃ……。
それでも最後は、椅子からおしりを徐々にずらし、帰りたいアピールをしてくる。いたずらっ子のようにおどけた表情まで見せている。これはいったい何なのだろう。
じつはかなりのお茶目さんなんじゃ……。
聞きたいことは聞けたのだが、なんだか狐につままれたようなインタビューだった。