サムライブルーの原材料BACK NUMBER
浦和を愛し、浦和に愛された男。
那須大亮の幸福な5年間と旅立ち。
posted2018/01/18 08:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
元日に、携帯電話が鳴った。
画面の表示には「那須大亮」とあった。
年始のあいさつを交わしたあと「報告があります」と律儀な36歳のベテランは言った。それは5年間在籍した浦和レッズを離れるという一大決心だった。
「浦和で現役を終えるという選択肢もありました。でも最終的には自分の年齢も考えて“新しいチャレンジに向かいたい”と、自分の気持ちに従うことにしました」
浦和とは単年契約だったが、延長オファーを受けていること、ほかのクラブから移籍のオファーがあることは以前に聞いていた。
すっきりした口調に変わっていた。元日の電話から5日ほど経って、ヴィッセル神戸の獲得報道が流れた。
スタッフ、サポーターの思いが伝わってくるように。
サンシャイン池崎のセリフではないが、彼は“浦和を愛し、浦和に愛された男”であった。
空前絶後の熱血男。
エアバトル、咆哮、目を血走らせての競り合い……。気持ちを前面に押し出すファイトっぷりは見ているこちらがやけどしそうなほど。浦和の雰囲気が、彼のマグマを目いっぱい引き出していた。那須の言葉を思い出す。
「これほどまで“一体となって戦おうぜ、俺らがうしろについてるから”という雰囲気のなかで戦っていると、なんか、周りの方のいろんな思いというのがもっともっと伝わってくるようになってきたんです。サポーターの方だけじゃなくて、裏方のスタッフさん、クラブハウスを掃除してくれるおばちゃん、グラウンドキーパーの人……みんなの思いを大事にしなきゃいけないって」
試合前に、ベンチまで戻ってきてチームスタッフにバチーンと背中を叩いてもらってピッチに出ていくのが「儀式」となった。これはスタッフの思いを背負って戦う覚悟。試合前に目を閉じて両手を広げてサポーターの思いを感じようとするのは、それを背負って戦う覚悟。