サムライブルーの原材料BACK NUMBER
岡山一成が等々力に帰ってきた理由。
“岡山劇場”次の夢を託す場所。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTsuneyo Sakai
posted2018/01/10 08:00
奈良クラブでのリーグ最終戦、ファンに退団の挨拶をした。岡山一成のキャリアは、ここで終わりではない。
「マツくん、分かったで。ここでプレーした理由が」
「僕のことをね、唯一、真剣に怒ってくれる人でした。もうトコトン追い詰めんですよ、あん人は(笑)。でもねマツくんも弱さがあって、僕もそのこともよく分かっていた。だから僕の弱い部分、ずるい部分を分かるんでしょうね」
アルウィンに来て、松田の思いを知った気がした。
あの人はなぜ、自分でも知らない松本山雅というチームを選んだのか。スタンドとピッチが近いアルウィンのピッチに立ってみて、ようやく理解できた。スタンドにいるファンの息づかいまで伝わってくるような、自然と熱くなっていく雰囲気を感じることができた。
「マツくん、分かったで。マツくんがここでプレーしたかった理由が」
スタンドと一体となれるスタジアムで、Jリーグに引き上げるという純粋なロマン、夢。あれだけ悩んでいたものが、瞬く間に氷解していく感覚に包まれた。
「僕ね、松田直樹に導かれたんすよ。僕はマツくんの下でやってきましたから、JFLよりも下から始めようと思ったんです」
試合の翌日、一度断った奈良クラブに自ら連絡を入れ「お世話になりたい」と告げた。シーズンはもう半ばを過ぎていたが、岡山は松田に背中を押されてピッチに舞い戻ってきた。
奈良で「夢のような体験を送ることができました」。
夢を追い掛け、情熱をぶつけた5年間だった。
「マツくんが山雅でやる意味を見つけたように、僕も奈良でやる意味を見つけたんです。今年('17年)年間7位で、僕がおるときに結局Jリーグに昇格するという夢は叶えられんかった。でもね、楽しかったですよ。
Jリーグと比べたら下手やし、みんな働きながらサッカーをやらなきゃいけない環境やけど、誰もが情熱あるんですよ。みんな夢があるんですよ。そんなみんなとね、サッカーをやれたのがうれしかった。楽しかった。地域リーグとJFLを戦えて、夢のような体験を送ることができました」
岡山はそう言って、何度も奈良への感謝を口にした。