猛牛のささやきBACK NUMBER
金子千尋「マー君じゃないですけど」
オリのエースとして、負けない決意。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2018/01/06 11:30
若手投手が続々と台頭してきたとはいえ、福良監督が一番厚い信頼を寄せるのはエース金子千尋だ。
金子にしては珍しく制球に苦しんだ1年だった。
先発投手に絶対的な柱が1本か2本でもあれば大型連敗は防げるが、2017年はそこも揺らいだ。エースの金子が、5月23日の東北楽天戦で5回途中に8失点でマウンドを降りるなど、らしくない大量失点を喫する試合が何度かあった。
シーズン終盤に白星を重ねて12勝(8敗)を挙げたが、本来は制球力を武器にする金子が、どちらもリーグワーストの四球56個、被本塁打21本という結果だった。いつもはひょうひょうと打者を見下ろすように投げる金子が、2017年はマウンドでいらだちをあらわにする場面が多かった。
金子自身もこう自己分析していた。
「打たれたくないという気持ちが出過ぎてボール先行になり、フォアボールになる。それでフォアボールを嫌がって、ホームランを打たれる、というケースが目立った」
山岡、黒木、小林慶……若手の活躍をどう感じる?
ただ投手陣に関しては、ルーキーの山岡泰輔、黒木優太、小林慶祐や2年目の近藤大亮といった若手の活躍が目覚ましかった。
ドラフト1位の山岡は安定した投球で先発ローテーションを守り8勝を挙げた。援護をもらえず初勝利まで7試合もかかったことが影響し、最終的に2桁勝利には届かなかったが、8月26日の埼玉西武戦では初の完封勝利も飾った。
シーズン終盤には山本由伸も一軍デビューし、度胸満点の投球で球団の高卒新人としては23年ぶりとなる勝利を挙げた。同い年の山崎颯一郎や育成選手の榊原翼もファームで大器の片鱗を見せるなど、今後が楽しみな若手投手が非常に多い。
山岡の完封に刺激を受けたかのように、金子も8月30日のロッテ戦で完投勝利を収めるなど、終盤に復調した。
ただ、山岡や山本の活躍で火がついたかと聞くと、エースはこう答えた。
「まだついてないです。1年目の選手にそういう気持ちにはまだならないですね、僕は」
何年も結果を残してきたエースのプライドがのぞいた。