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オグリキャップとホーリックス。
ジャパンカップ「2.22.2」の伝説。
text by
江面弘也Koya Ezura
photograph byJRA
posted2017/11/26 08:00
ゴールまで400mの地点で9番人気のホーリックスが先頭に立った。それをオグリキャップが必死に追走するも、クビ差及ばなかった。
ホーリックスは「見栄えのしない牝馬」だった。
「そもそも、天皇賞で負けたから……」
瀬戸口はいまでも悔しそうに言う。
オールカマーと毎日王冠を連勝して臨んだ天皇賞・秋ではインコースを進んだ結果、直線で前が詰まって、先行したスーパークリークに首差届かなかった。この敗戦で、オーナーは「もう一回、マイルチャンピオンを使ってくれ」と言ってきた。
「こんなこと言っていいかどうかわからないが、リースだったからな」
当時の新聞報道によれば、新旧の馬主間で1年間3億円というリース契約が結ばれていた。そうした事情もあってオグリキャップはマイルCSからジャパンカップという“連闘”を強いられることになった。冒頭の評論家をはじめ「オグリ陣営」に批判の目を向けていた人は多かった。
いろんな面で騒々しかったあの日の東京競馬場で、ジャパンカップに出る外国馬を観察していた瀬戸口は「この馬にだけは負けないな」と思った馬が1頭いたと言う。ニュージーランドのホーリックスだった。
「見栄えのしない牝馬でね。この馬にだけは負けないなと思っていたら、その馬に負けちゃった」
アメリカのようなスピード競馬になっていた。
レースは思わぬ展開となった。
大方の予想はアメリカのGI3勝馬ホークスターが逃げるだろうということだった。来日直前には芝12ハロン(2400m)2分22秒8の世界レコードを樹立していた。ところが、その快速馬を制してイギリスのイブンベイが先頭に立った。ドイツのGIオイロパ賞など4連勝中の馬だ。3番手にホーリックス、1、2番人気のスーパークリークとオグリキャップが並ぶようにして4、5番手を進み、そのうしろに凱旋門賞馬キャロルハウス(イギリス)と、有力馬が前にポジションをとった。
フジテレビで実況していた大川和彦は1、2コーナーを回る馬群を双眼鏡で追っていた。向こう正面の直線でペースが落ち着いたときに先頭から後方の馬まで追い、ポジションを確認するのが通常の東京2400mの実況パターンだったが、この日はペースが落ち着くどころかずっと速い流れがつづいていた。しかも有力馬が前に集まり、アメリカの競馬のような、力任せのスピード競馬になっていた。