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オグリキャップとホーリックス。
ジャパンカップ「2.22.2」の伝説。
text by
江面弘也Koya Ezura
photograph byJRA
posted2017/11/26 08:00
ゴールまで400mの地点で9番人気のホーリックスが先頭に立った。それをオグリキャップが必死に追走するも、クビ差及ばなかった。
「オグリ来た! オグリ来た!」と大川の声が。
3コーナーの手前でうしろの馬を紹介しようと思ったとき、実況席の左脇にあるTVモニターが目にはいった。画面は正面から馬群を映していた。大川はとっさに映像に合わせた実況に切り替え、再び前の馬たちを追っていく。結果、レース中に大川が口にしたのは前の6頭だけだった。
先頭のイブンベイは最初の1000mを58秒5で通過する。暴走ペースに近い。通常、ハイペースになれば追い込む馬が有利になるが、この日は前の馬が止まらない。そのまま直線に向き、3番手にいたホーリックスが抜け出してきた。
それからひと呼吸遅れて外からオグリキャップが追い込んできた。
「オグリ来た! オグリ来た!」
大川の声のトーンが高くなる。南井克巳が懸命に右鞭を振るう。まだ前にホーリックスがいたが、大川は「オグリ先頭!」と口にしている。それほどの勢いでオグリキャップが迫ってくる。
「オグリには借りは半分しか返してないですけど、来週は倍にして返したい」
天皇賞の敗戦を自分の責任と感じていた南井の、マイルCSでの涙のインタビューが大川の頭にあった。3週間前、F1のオーストラリアグランプリで4位にはいった中嶋悟のレースの興奮を抑えきれずに実況した大川は、あのときとおなじように叫んでいた。
「オグリキャップ、頑張れ! オグリキャップ、頑張れ!」
2分22秒2は当時驚異的なタイムだった。
オグリキャップは首差届かなかった。
なんとか届いてほしいと祈りながら声を張り上げていた瀬戸口は、オグリキャップの追撃を抑えた馬がなんだったのか知らなかった。「どの馬やった?」と横にいた調教師にきくと、負けないだろうと思っていたあの牝馬だった。
勝ちタイムを見て、瀬戸口はいま一度びっくりする。
2分22秒2――。
当時としては驚異的なタイムだった。ホークスターの記録を大きく上回る“世界レコード”である。あの速い流れについて行って、それでさらに前を追い詰めて、こんなタイムで走ってしまったオグリキャップに頭がさがる思いだった。