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栗原恵「解雇して下さい」から1年。
大好きなバレーで今の100%を。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKiyoshi Sakamoto
posted2017/11/15 17:00
今もなお、その存在感はコート上の誰よりも強い。栗原恵は日本バレー界にとっての財産なのだ。
昨年は頭痛や倦怠感に見舞われ、引退を決意した。
今から1年前の2016年。栗原は引退を決意していた。
開幕を間近に控えた昨年9月。栗原はケガもなく、体のキレも良くパフォーマンスも上々だった。前年の2015/16シーズンで準優勝した日立にとって、2016/17シーズンは悲願の優勝に向けた勝負の1年。悲願達成に向け、攻撃力と経験値という武器を持つ栗原に対し、松田明彦・前日立リヴァーレ監督からも「今年はスタート、開幕からメグで行くぞ」と早々に伝えられていた。
異変が生じたのは、開幕まで1カ月に迫った9月の終わりごろだ。
それまで経験したことのない頭痛や倦怠感に見舞われ、ひどい時は横になっても寝ることすらできなかった。
本来ならその時点で「おかしい」と違和感を訴え、病院に行くなり、練習を休むなり、対処策はいくつもあったはずなのだが、元来痛みなどに耐える力が強く、周囲に心配させまいと練習を続けた。
何より、「開幕から行く」と言われている以上、そのチャンスを失いたくないという気持ちが痛みをも上回り、練習が始まれば自分でも不調を忘れるほど体は動いていた。
「『解雇して下さい』って何度も言いに行きました」
このまま開幕を迎えるまでに痛みも消えるだろう。そう思っていた矢先、体調不良を心配したトレーナーに付き添われ病院へ向かうことに。「2時間だけ抜けさせて下さい」と体育館を後にした栗原だが、直後に2週間の入院を余儀なくされ、再び体育館に戻ったのは3カ月が過ぎてからだった。
「監督もチームの選手も、みんなが『出られる時のために準備してくれればいい』と言ってくれたんです。でも私はプロ契約なのに、試合どころか練習へも出られないのが申し訳なさ過ぎて、『解雇して下さい』って何度も言いに行きました」
ケガならばリハビリもできるが、体調不良では体を動かすこともできず、3カ月で筋肉量も目に見えて落ちた。過去、ケガをして手術した経験はあるが、その後コートへ復帰した時よりもずっと時間が長いように感じられた。