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日本一へ「やられたままはイヤ」。
千賀滉大、タイトルより登板の信念。 

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田尻耕太郎

田尻耕太郎Kotaro Tajiri

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photograph byKyodo News

posted2017/10/13 07:00

日本一へ「やられたままはイヤ」。千賀滉大、タイトルより登板の信念。<Number Web> photograph by Kyodo News

千賀(中央)の最終登板で、サヨナラ勝ちを果たしたホークス。ポストシーズンでもその強さを発揮できるか。

「お化けフォーク」が全く落ちない絶不調。

 今年、マスコミの前で選手批判を滅多にしなかった工藤公康監督もこの日ばかりは失望した口調でこのように言い放った。

「(千賀)らしくない……らしくなかったですよね。うーん、色々考え方や皆さんの見方もあるかもしれないけど、バッターと戦っている風には見えなかった。このピッチングは残念です。一番大事なのは戦う姿勢。特に楽天さんとはCSでも当たるかもしれないわけですから。次のピッチャーのことも考えないといけないかもしれません」

 まさかのCS先発剥奪の危機。9月以降の千賀はそれくらい絶不調が続いていた。17日のライオンズ戦(メットライフ)は6回1失点にまとめたが、球数を141球も費やした。異常事態だった。あの「お化けフォーク」がほとんど落ちなかったのだ。

「フォームのバランスが良くなかった」

 今年は開幕前にWBCを戦って臨んだ。檜舞台での大活躍で「世界のSENGA」と一気に知名度を高めた。シーズンはトータルで見れば好結果を残したが、じつはコンディションづくりには苦労した。

 5月には先発しながら初回のわずか9球で緊急降板した試合があった。背中の左側につったような症状が出た。その後も思うような投球が出来ず6月8日に登録抹消されて約3週間戦列を離れた。

納得いく投球は則本と投げ合った8月の1試合くらい。

 夏場は先発ローテを回ったが、納得のいく投球をしたのは8月19日のイーグルス戦(Koboパーク宮城)くらいだ。

「則本(昂大)さんと投げ合い、8回で10三振を奪って無失点に抑えた試合です。意識はしましたし、気合も入っていました。気持ちも内容もマッチした、今年で一番印象に残るピッチングでした」

 かつて右肩痛に苦しんだ。肩関節が非常に柔らかいのが千賀の特長だが、関節の緩い「ルーズショルダー」がその裏返し。故障のリスクと常に隣り合わせなのだ。そのため個人トレーナーと契約もして、ケアには人一倍気を遣っている。ただ、今年は体を触ってもらう回数を意図的に減らしたりもした。ケアを怠ったわけではなく、新しい調整法を模索し、自分がどこまで耐えられるのかを知る前向きな意味合いだった。

 若い時分の苦労は成長痛である。

 その努力の姿を、野球の神様はどこかで見ていたのだろう。

【次ページ】 9回裏2アウト、上林の一打で負けが消えた。

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