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2年間は「ちょっと短かったかな」。
掛布二軍監督が滲ませた意地と核心。
posted2017/10/07 09:00
text by
渡辺勘郎Kanrou Watanabe
photograph by
Kyodo News
「涙雨やで」
「一軍の監督、して欲しかったなぁ」
「ユニホーム着ることは、もうないやろ……」
平日の、それも午前中という、およそプロ野球観戦には似つかない時間帯だった。各々が31番のユニホームを着た“ミスター・タイガース”とほぼ同年輩と思われる初老の“トラキチ”たちは阪神・甲子園駅に降り立つと生憎の雨空を見上げ、傘を差しつつ、そんな言葉を漏らし、まだ試合開始まで随分と余裕があるのに急ぎ足で球場に向かって歩いていく。
2017年9月28日。ウエスタン・リーグ阪神対広島の今季最終戦は甲子園球場での開催となった。掛布雅之二軍監督の今季限りでの退任が決まり、予定されていた鳴尾浜球場から急きょ変更されたのだ。
「掛布さんには、ずーっと阪神のユニホームを」
そんな31番見納めの試合に駆け付けたファンはバックネット裏と一塁側内野席を埋め尽くし、その数なんと7131名。独特な熱気に押し返されたように試合開始時刻(12時30分)の30分前にはすっかり雨も上がっていた。
「現役引退のときは忙しくて観に行けなかったんで、今日は何としても、と思って来ました。時間が融通できるようになった今は僕もすっかり掛布さんみたいな髪の毛になっちゃってて(笑)。それだけ時間が経ったってことでしょ。掛布さんには、ずーっと、何でもいいから阪神のユニホームを着て欲しい、と思ってました。2年前、やっと着てくれることになって、しみじみ、良かったなあ、と思ってたのに、急にこんなことになって……ただただ残念です」
「もう40年以上前のことですが、高知の安芸キャンプで泥だらけになって練習してるの見て以来のファンです。当時、掛布さんが表紙になってた週刊ベースボール買って、そこに載ってた文通コーナーで『掛布ファンの方と』と募って文通した女性が今の奥さん(笑)。今日も一緒に来てます。31番のラストなんで、目に焼き付けてきたいと思います」
お馴染の縦ジマはもちろん、最近の阪神戦のスタンドでよく見掛ける黄色や黒のレプリカユニホームから、昔懐かしい’70年代仕様のギザギザのラインの入った縦ジマのユニホームまで……タイガースの歴代ユニホームが全部揃っているのでは、と思われるくらい色々なバージョンの31番を身にまとう様々なファンたちに掛布雅之への思いを尋ねると、皆、話が止まらない。