卓球PRESSBACK NUMBER
「自信がない」から「卓球、楽しい」。
平野美宇はいかに壁を超えたのか。
text by
高樹ミナMina Takagi
photograph byAFLO
posted2017/09/26 11:00
平野美宇は中国からも警戒されるようになり、相手の研究を上回る必要が以前よりも増してきた。ここからは、地力の勝負なのだ。
平野戦を前に石川佳純が話していたこと。
シュ・ウレイとの準決勝に敗れた平野は最終日の3位決定戦で石川佳純(全農)とあたることとなった。石川は世界ランク5位で目下、日本人トップを走り、平野と日本のエース争いを演じている。
その石川は平野と真逆に好調でインドに乗り込んでいた。8月のワールドツアー・ブルガリアオープンで単複優勝、翌週のチェコオープンでもシングルス準優勝で波に乗る。そしてアジアカップでも大会2日目の準決勝で世界ランク4位のリュウ・シウェン(中国)と互角の戦いを見せ、石川がリュウ・シウェンを追い詰める場面もあった。だが最後の詰めに甘さが出て、ゲームカウント2-4で敗退。平野と同じ3位決定戦に回っていた。
石川と平野といえば今年1月の全日本選手権で、当時同大会3連覇中だった石川を平野が怒涛の攻めで破り優勝したインパクトが強い。しかし、今年に入ってからの対戦成績は2勝1敗で石川がリード。日本のエースの意地を見せている。アジアカップでも絶対に負けられないところだ。
だが、そんな石川が大会の少し前に興味深い話をしていた。「年下の選手と試合をする時に、どうしても守りに入ってしまうことがある」というのだ。この心理は追われる立場ならではだろう。全力で向かってこられるプレッシャーがそうさせているようだ。だがアジアカップ3位決定戦での石川は年下の平野に容赦なく勝ちに行った。
石川が「気持ちで押した」ロングサーブ。
鍵を握ったのは第3ゲームだった。平野が先に2ゲームを奪い、第3ゲームも1-5でリードする。ところが平野に珍しくサーブミスが出て、そこから石川が3ポイントを連取。さらに5-7の場面でまたしても平野がサーブミスをしたのを見て、石川が2本続けてロングサーブを出すという思い切った戦術に出た。ロングサーブは相手に待たれて打ち込まれるリスクがあることから、通常、続けて出すことはあまりしない。石川も「普通、長いサーブは連続で出さないが、気持ちで押していけた」と話している。
このゲームを奪った石川は続く第4、5ゲームも連取し、第6ゲームは落としたもののフルゲームを制して平野を下した。試合後、石川が「第3ゲームで1-5になって、このままやっても絶対に負けると思った。思い切ってサーブを変えて、攻めていこうと気持ちを切り替えられた」と語った勝因には、思わず膝を打った。