卓球PRESSBACK NUMBER
「自信がない」から「卓球、楽しい」。
平野美宇はいかに壁を超えたのか。
text by
高樹ミナMina Takagi
photograph byAFLO
posted2017/09/26 11:00
平野美宇は中国からも警戒されるようになり、相手の研究を上回る必要が以前よりも増してきた。ここからは、地力の勝負なのだ。
しきりに聞こえた「自信がない」という言葉。
その違和感は予選リーグ2試合目のシュ・ウレイ、そして3試合目のドゥ・ホイカンとの対戦でさらに膨らんだ。いずれの試合もバックハンドが安定せずミスを連発して、シュ・ウレイにストレート負け、ドゥ・ホイカンにもフルゲームの末に敗れてしまった。
このメンバーなら中国の選手に負けることはあっても、平野の2位通過はほぼ確実と思われた。それがまさかの3位。
この結果には本人も相当こたえたようで、試合が終わると、ベンチコーチに入っていた馬場美香日本女子代表監督と平野を担当するJOCエリートアカデミーの張成コーチに支えられるようにして平野はコートを去った。そしてバックステージで懸命に声をかける馬場監督と張コーチのもとで泣きに泣いた。
平野からはしきりに「自信がない」という言葉が聞こえてくる。一体、何に対して自信がないのだろう? わずか1年の短期間にW杯や全日本選手権を制し、アジア選手権では中国勢を倒して優勝し、世界選手権でも日本の女子シングルスに48年ぶりのメダル(銅)をもたらすなど、輝かしい成績が彼女に大きな自信を植え付けたはずだ。
結局、平野の涙は止まらず、この日は一言も話を聞くことができなかった。
完敗した準決勝で、平野の表情が明るく……。
大会2日目の朝はプレーオフで幕を開けた。平野はわずか一晩でどれだけ立ち直れているのだろう。気持ちの切り替えは容易ではないはずだが、プレーオフの1試合を勝ち、何とか決勝トーナメントの準々決勝へ駒を進めた。そして注目の準々決勝は台湾の陳思羽(チン・シウ/世界ランク43位)とフルゲームにもつれ込み、尻上がりに調子を上げた平野が接戦を制した。
続く準決勝は予選リーグでストレート負けしたシュ・ウレイが相手だった。そこでもやはり平野のバックハンドにミスが目立ったが、この試合ではコーナーを突く鋭い両ハンドドライブやフリックなどの台上攻撃が鮮やかに決まりポイントを奪う場面もあった。結果は再びストレート負けではあったが、ゲーム内容は予選リーグより遥かに良くなっている。そして何より、前日の鬱々とした表情がだいぶ晴れたように見えた。