スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
実は世界の100m走は遅くなっている?
日本人の五輪決勝は夢物語ではない。
posted2017/09/16 08:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
AFLO
桐生祥秀がついに9秒台に突入し、日本の陸上界は新時代を迎えた。
1990年代までは男子マラソンが王者であり、そこから2004年のアテネ・オリンピックまでは女子マラソンの黄金期へと移行した。
その後はハンマー投げの室伏広治が陸上界の顔だったが、ここに来て100mの時代が幕を開けた。
大胆に予測するなら、今後日本のスプリンターたちは世界との差を縮めていくと考える。そのヒントとなったのは、ロンドンの世界選手権の最中、8月7日付のイギリスの新聞『The Times』を読んでからだ。
文中には過去5年間のオリンピック、世界選手権の男子100m決勝のタイムが折れ線グラフで表され、“100m finals getting slower”という見出しがつけられていた。
「男子100mは遅くなっている」という意味だ。これが実に興味深かった。
全てはウサイン・ボルトから始まった。
後世になって振り返った時、2012年が男子100mのレースレベルがピークだった――と総括されるかもしれない。
異常なレベルの高騰を呼んだのは、ウサイン・ボルトの存在である。
もともとボルトは200mと400mを専門とするはずだったが、「400mの練習はキツすぎるから、100mと200mに転向したい」と考え、実際に100mのレースに出て、コーチを納得させたという経緯がある。
彼が100mに本格参戦したのは2008年のことで、その年の北京オリンピックで9秒69という驚異的なタイムをマークする。
この走りは、それまでの既成概念を覆す“価値破壊的な走り”だったが、彼の100mへの参戦は他の選手のレベルを引き上げる結果になった。