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2年連続昇格でまさかのセリエA!
“魔女の街”ベネベントの大冒険。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2017/08/26 08:00
初のセリエA開幕をアウエーで迎えたベネベントは昨季10位サンプドリアを相手に先制するも、前半38分、後半9分に失点して、逆転負けを喫した。
セリエBですら縁がないクラブがまさかの昇格で……。
財政基盤の弱い地方クラブのご多分に漏れず、ベネベントも破産と再興を繰り返してきた。クラブ史のほとんどの頁はアマもしくはセリエC時代のものだ。2010年以降には、2部昇格プレーオフへ5度挑んだ。そして、5度とも敗れた。セリエBですら縁がなかった。
一昨年の秋、町を大水害が襲った。泥で埋まったベネベントにとって、仰ぎ見るセリエAは天上界にも等しかった。
7月下旬、セリエAのシーズンレセプションが盛大に開催されたときのことだ。
金満補強で世間の耳目を集めるミランの新CEOファッソーネや居丈高なラツィオ会長ロティートらカルチョ界のVIPがエレガントな装いでずらりと顔を揃える中、ベネベントのビゴリート会長も出席した。
ところが、初老の会長は「(革靴は)足に豆ができるから」と、場違いなテニスシューズで現れた。
会長は会場の気まずい空気に気付いたらしい。
居心地の悪さから「うちはたぶんセリエAのレベルにない」と怖気づいてしまった。
彼我の差は絶望的に大きい。
指揮官バローニに魔女頼みをする気はさらさらない。
ベネベントの町に伝わる凶暴な魔女“ヤナラ”は、胡桃の木の下で悪魔召喚の儀式をしたり、人びとの飼馬を襲ったりしたらしいが、セリエA残留という望みのために彼女の魔力へ縋りたくなる気持ちもちょっとわかる。
だが、指揮官バローニに、魔女頼みをする気はさらさらない。'09年にシエナで数試合指揮を執ったことはあるが、今季がセリエA監督としての実質デビューシーズンだ。
「我々の昇格は堂々と勝ち得たものだ。Aでも怖れることはない」
現役時代はナポリのストッパーだった。'89-'90年シーズンのスクデット・メンバーの一人で、ラツィオとの最終節で優勝決定ゴールを決めた。アシストしたのは、あのマラドーナだ。