話が終わったらボールを蹴ろうBACK NUMBER
俊輔の系譜を継ぐマリノスの技巧派。
天野純、「うまいけど」からの脱皮。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/08/05 08:00
バブンスキーら強力な外国籍選手を迎えたマリノス。ただ現在好調のチームで攻撃のタクトを振るうのは、進境著しい天野である。
「俊さんがやってきたことを、自分が求められる」
今シーズンは開幕から全試合に出場しているが、天野は自分のプレーにも数字にもまったく満足していない。清水戦(19試合目)を終えた段階で2得点3アシスト。序盤は主戦場がボランチだっただけに致し方ないところがあるが、今のトップ下としては、ポジション的な役割を果たせていないと厳しい表情を浮かべている。
「清水戦でいえば相手の守備の選手の間でボールを受けて、自分でターンをしてボールを持って行って決めるという機会がなかった。ワンタッチで決めるだけではなく、そういうゴールも貪欲に狙っていきたい。今の僕の課題は、個人で試合を決められる選手になることなので、そのためにもどんどんゴール前に入って得点に絡みたいと思います」
決定力を高め、他の選手との「違い」を意識する天野だが、その個性的なプレースタイルは長年マリノスのエースとして君臨した中村俊輔に通じるところがある。
試合を決定づける仕事を常に意識してプレーしていたエースは今やジュビロ磐田の一員となったが、ジュニアユースからその背中を見つめ続けてきた天野にとって中村は「大きな存在」だ。
「チームが優勝するにはトップ下の選手が違いを生み出さないといけない。それは俊(中村俊輔)さんがずっとやってきたことですし、そこが今の自分に求められているところだと思っています。俊さんとは同じ左利きですし、プレーが似る部分がありますが決定的な仕事ができる選手ですのでずっと憧れています。早く追い付きたいですし、俊さん以上にもっと輝きたいなって思います」
「うまいけどね。点取るとか、自分の強みを出さないと」
天野が入団してきて2年目、中村は「うまいけどね。それだけじゃポジション取れないでしょ。点取るとか、自分の強みを出さないと」と厳しく見つめつつ可能性を認めていた。あれからちょっとずつ成長し、今や中村の系譜を継ぐゲームメーカーになりつつある。今後、より危険な存在になれば相手チームに研究され、マークが厳しくなっていくだろう。
そうしてうまくいかなくなった時、打開できるか否か。
かつて中村はそうした壁を乗り越えて成長していったが、天野にはまだそうした大きな壁がない。その壁をひとつ、ふたつと乗り越えていけば中村の背中はもちろん日本代表というステージも見えてくる。天野の「違いを生み出す」選手への道程は始まったばかりだが、今後への期待感は大きく膨らむばかりだ。