野球のぼせもんBACK NUMBER
最多勝争う東浜巨と「工藤塾」。
毎日の筋肉痛で取り戻した快速球。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKyodo News
posted2017/06/06 12:00
ドラゴンズ戦のヒーローインタビューで上林(左)から汗をぬぐわれる東浜。表情が豊かになったのも、結果が出ているからこそだ。
プロ5年目、ルーキーイヤー以来となる完投勝利。
ビシエドへのそれは、真ん中低めがグッと伸びた。反応させず見逃し三振だ。そしてゲレーロには外角いっぱいの144キロで最後、空振りを奪った。まさに会心の2者連続奪三振に小さくガッツポーズを作る。最終回も続投して、トータル126球で27個のアウトを1人で奪ってみせた。
「8回と9回はやっぱり暑かった」と苦笑いした。ヤフオクドームではホークスが勝利した場合は試合後に「勝利の花火」を行うため、ルーフオープン試合でも準備のために8回で屋根を閉じる。風がなくなり、空調も急には効かないため、急激に気温は上がるのだ。熱投を続ける中、これは相当堪えたはずだが、それでも力で押し切ったところに価値がさらに増した。
東浜が9回完投したのは、プロ5年目にしてようやく2度目だった。最初はルーキーイヤーまで遡る。シーズン最終戦でプロ初完投を初完封勝利で飾ったのだ。
しかし、東浜はきっぱりと言う。
「点を取られながらも、最後まで投げきれた。ただゼロを並べたあの時の完封よりも、僕は嬉しく思いました」
これが6勝目。この時点でパ・リーグ最多勝争いのトップに並んだ一方で、黒星は1つだけだ。防御率2.31の安定感も光っており、今シーズンはランキングの上位に名前がずっと載っている。
大谷、藤浪以上と言われながらも期待を裏切った3年間。
昨年、9勝を挙げた。東浜は自身初の2桁勝利にあと一歩届かなかったことを本当に悔しがったが、それ以前を思えば十分すぎるほどの成長だった。
才能の開花と言っていい。
沖縄尚学高校でセンバツ優勝投手となり、亜細亜大学では群雄割拠の東都リーグで通算35勝、リーグ新の22完封と420奪三振の記録を作った。しかし、プロ入りした頃はアマ球界を席巻した150キロ級の直球は消え、スピードは10キロ近く落ちていた。
投球術の巧さこそ一級品だが、誤魔化しで通用する世界ではない。同期ドラフトの大谷翔平(ファイターズ)や藤浪晋太郎(タイガース)よりも「間違いなく即戦力」と評されながら'13年3勝、'14年2勝、'15年1勝と入団から3年間は期待を裏切り続けた。