炎の一筆入魂BACK NUMBER
広島が仕掛ける打順革命、思想は?
新井が5番ではなく6番に座る理由。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/05/29 17:30
「4番」の重責を知る新井の背中を見て、鈴木誠也は“本物の4番”になっていく。
「もう1つの顔をつくりたい。できれば3つ目の顔も」
4月25日、菅野智之が先発した巨人戦で今季初めて新井とエルドレッドの2選手をスタメンから外した。
一貫した起用法から、違和感はなかった。
だが、チームは4安打完封負け。当時新井が打率.277、3本塁打、14打点、エルドレッドは打率.344、4本塁打、15打点と欠場した2選手の穴を感じさせた。
だが、大竹寛が先発した翌26日も2選手を先発から外した。
打撃コーチ陣はエルドレッドの先発起用を進言するも、緒方孝市監督が決断。指揮官には前日の敗戦にも、手応えはあった。
それ以上に、覚悟があった。
「もう1つの顔をつくりたい。できれば3つ目の顔も。新しいことをやろうと思えば、周りから非難される。でも成功したら称賛される。エルドレッド、新井がいない形も考えておかないと」
打順は流動的でも、主力は今季の打線がベース。並びを変えても、主力となれる選手が増えなければ総合力は上がらず、将来性に不安を残す。
指揮官の期待に応え、野手陣は9安打7得点を奪って勝利した。
ベンチメンバーを最大限活用した打順の妙。
この試合、勝負を決めた6回に、打順の妙が隠されていた。
5番から松山竜平、安部友裕、西川龍馬と左打者が並んだ。大竹寛対策である一方、巨人の継投を誘い込む意味もあった。
開幕から巨人は左の中継ぎに不安を残していた。広島ベンチには、新井、エルドレッド、小窪哲也と右の実力者が控える。
今の左の中継ぎならば勝機はある。
試合前から石井打撃コーチは「池田(駿)に合わせて準備しておいてくれ」と3選手に伝えていた。
同点の6回無死一塁で巨人ベンチは94球の大竹寛から池田にスイッチ。代打攻勢の合図だ。
まずはエルドレッドが痛烈な中前打でチャンスを拡大させると、安部の犠打で1死二、三塁後、続く代打新井は顔で敬遠気味に歩かされた。2人の投入で一気に1死満塁とし、8番會澤が初球をたたいて決勝の2点適時打を放った。
ベンチメンバーを含めた駒を最大限に生かすスタメンだったとも言える。