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三冠王、監督、GM時代の落合博満。
知られざる「オレ流の素顔」を読む。
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byShigeki Yamamoto
posted2017/05/14 08:00
GM時代、12球団合同トライアウトの視察に来ていた時の落合。今季の不振で、氏の中日復帰を望む声もある。
広末涼子に「早く投げなさいよ」と突っ込む落合。
デビュー曲『MajiでKoiする5秒前』が球場に流れる中、マウンドに向かった広末はキャッチャー古田敦也(ヤクルト)のサインに向かって何度か首を振るジャスチャー。
それに対して打席を外し、巻きのポーズで「早く投げなさいよ」と突っ込む落合。
ちなみにこの試合の全パ4番はイチロー(オリックス)、MVPは清原和博(巨人)である。早いもので、あれから20年が経つ。
「落合さんのことを悪く言う人は多いですけど……」
この年のオールスターではひとつのドラマがあった。
巨人から移籍した選手たちにスポットを当てた名著『元・巨人』の中で香田勲男(近鉄)が、監督推薦で初めてのオールスターに出場した時のことをこう振り返っている。
ローテの谷間で投げていた巨人時代は、自分とは無縁に思っていた夢の大舞台。しかも、香田は本拠地の大阪ドームでリリーフ登板すると石井琢朗(横浜)、古田敦也(ヤクルト)と2者連続三振。さらに松井秀喜(巨人)までもゴロに打ち取った。
チェンジになってベンチに戻ると突然、巨人時代の元チームメイト落合が「おい、香田、これ。記念になる」とボールを差し出してきた。なんと、松井がファールした時のボールだという。落合が、そのファールボールをポケットに入れて取っておいてくれたのだ。
「すごいなぁ、この人は」
香田は元三冠王の心づかいに感激する。
「落合さんのことをいろいろと悪く言う人は多いですけど、本当はそういう心づかいがすごくできる人なんです。落合さんみたいな人が、僕みたいな人間にそういうことをしてくれるんですよ。すごく嬉しかった」
一度東京で挫折して、新天地の大阪で再起を計りようやくこの場所へたどり着いた。流れた時間をかみしめながら、そのさりげない優しさが身に沁みた。
ちなみにこの時のボールは、落合にサインをしてもらい、香田家で大事に飾ってあるという。