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伝説の五輪4×100mリレーの陰で……。
高瀬慧、五輪メダルなきリスタート。
text by
宝田将志Shoji Takarada
photograph byAFLO
posted2017/04/27 08:00
久々の実戦となった出雲陸上では、2位となった高瀬慧。五輪でつかみ損ねた栄誉は、別の形で手にするしかない。
桐生祥秀らメダルメンバーと開いた注目度の差。
今季の初戦に選んだのは、4月23日の吉岡隆徳記念出雲陸上だった。
向かい風0.5mだった100mの2本目、桐生が10秒08を叩き出す一方で、高瀬は10秒41。レース直後、テレビのカメラクルーは、目の前の高瀬にはお構いなしといった勢いで、桐生の周りに押しかけた。立ち位置の違いは明確だった。
「思ったより悪かったですね。10秒2台かなと思ったんですけど」
自身の走りを振り返る口調にも、あまり力がない。「予選より決勝はピッチを上げて、(地面を)踏んでいくことを意識したんだけど。最高速に到達する所で上半身が突っ込んで、上に跳ねちゃったかな」
佐久間コーチに「競技を続ける」と伝えたのが、昨年11月に入ってから。それまでは何もしておらず、ようやくグラウンドに戻ってからも、回復力が落ちていると感じることがしばしばあったという。「体がきついなと感じた時、それまでは踏ん張って練習していたけど、素直に休むようにしました。調子の波を探りながら、軌道に乗り始めたのが1月に入ってからくらいですかね」
スパイクのメーカーを変え、新たにストレングスコーチを探してきて指導を受けるなど自らを刺激したが、結果につながるには時間が必要だった。
中高生の「走っている姿を見たい」に励まされ。
わずか10秒、20秒ほどのレースで人生が左右される陸上短距離。その儚さの前で、一度はへたり込んだ高瀬。28歳のスプリンターを再び前に向かわせたものは何だったのか――。
「『もう1回、走っている姿を見たい』と言ってくれる人の声が一番響いたんですよ。特に中高生とか」
高瀬は将来、何からの形で陸上の指導に携わりたいと考えている。そのために今から出来ることに少しずつ取り組んでいる。例えば、シーズンオフの陸上教室。関係者から誘われて出向くこともあるし、自ら企画書を作って、所属先や地元の教育委員会などを通じて実現させることもある。