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伝説の五輪4×100mリレーの陰で……。
高瀬慧、五輪メダルなきリスタート。
text by
宝田将志Shoji Takarada
photograph byAFLO
posted2017/04/27 08:00
久々の実戦となった出雲陸上では、2位となった高瀬慧。五輪でつかみ損ねた栄誉は、別の形で手にするしかない。
メダルメンバーに割って入る戦いは、存在の証明。
リオ五輪の後も全国の小中学校などを飛び回り、陸上教室を20回近く実施した。子供たちに語りかけ、走る姿を見た。励まされ、そして、伝えたいことを改めて確かめた。
「ずっとうまくいく子よりも、なかなか結果が出ない子の方が圧倒的に多いですよね。諦めないでやってほしいなという思いがあるんです」
そこには決して「エリート」ではなかった自身のキャリアが重なる。桐生や飯塚翔太のように世界ジュニア選手権でメダルを取ったことはない。200mで日本選手権を制したのは社会人2年目の23歳、100mで10秒09の自己記録を出したのは26歳になってからだ。芯の強さと継続した努力で一歩ずつ日本のトップへの階段を上ってきた。
その生き方はこれからも変わらない。
「出雲で走ってみて、不安が大きいですけどね。6月の日本選手権くらいに何とかなるかな。今季は100mで世界選手権の代表に選ばれたいと思っています」
代表枠は3。桐生、山縣亮太、ケンブリッジといったリレーメンバーの間に割って入っていく戦いは、自己の存在を証明する戦いでもある。
この先、少しずつアスリートとしての老いを意識する場面も増えてくるだろう。2020年東京五輪に向けては1年ずつが勝負だ。可能性は十分あるが、厳しい挑戦になることは間違いない。道は険しく、だからこそ、進むその姿に「メッセージ」はある。