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福岡大大濠・八木啓伸監督の良識。
エースの投球練習を制止した理由。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2017/03/29 16:30
準々決勝ではついにマウンドに上がらなかった福岡大大濠のエース三浦銀二。八木監督の決断に感謝する日が、きっとくる。
体調に配慮とは言わず、優勝のための采配と言った。
結局、福岡大大濠は、公式戦初登板となる三浦以外の3人の投手で必死に継投したものの、3-8で敗れた。
7回裏、3-7と依然として大量リードを許す中、しびれを切らした三浦が再びブルペンへ走ったときは、八木も制止しなかった。
「本来、投げたがりの性格なので。ただ、逆転しない限り投げさせるつもりはありませんでした」
三浦の登板回避について、八木は状態を考慮したことはもちろんだが、同時にこうも主張した。
「(三浦の登板回避を決めた)決め手は、優勝するために、ということです。決勝まで進めば4連戦になる。休ませるなら、ここしかないと思った。三浦なしで勝ったら、チームも成長する。みんなでこの壁を超えようと言った」
ことさらエースの体調に配慮したとは言わず、優勝するための采配だという言い方をしていたのも潔かったし、監督として、あるべき姿のように映った。
これが後のない夏だったならば、あるいは決勝だったならば「状況は変わっていたかもしれない」と話す。それでも、将来のある高校生を預かる監督として十分、良識を感じた。
この良識が常識として広まれば……。
確かに投手を守るためにも、球数制限、連投禁止などのルールを早急につくるべきだとも思う。しかし高校野球は、弱小公立高校からセミプロのような強豪私学までさまざまなチームがあり、そのチームごとに異なる事情を抱えている。規制は、強豪校と弱小校のさらなる差を生む可能性もはらんでいる。
甲子園に出てくる監督は、とかく勝利至上主義に毒されていると見られがちだが、今回の八木の采配を見て、そんなことはないと思えた。
投手の酷使問題に関しては悠長なことを言っていられないのも事実だが、こうした良識が「常識」として広まれば、高校野球も少しずつ変わっていくのではないか。