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福岡大大濠・八木啓伸監督の良識。
エースの投球練習を制止した理由。

posted2017/03/29 16:30

 
福岡大大濠・八木啓伸監督の良識。エースの投球練習を制止した理由。<Number Web> photograph by Kyodo News

準々決勝ではついにマウンドに上がらなかった福岡大大濠のエース三浦銀二。八木監督の決断に感謝する日が、きっとくる。

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中村計

中村計Kei Nakamura

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 1回裏、福岡大大濠の大エース・三浦銀二が、ベンチを飛び出し、ブルペンへ向かおうとした。

 準々決勝の第2試合、福岡大大濠vs.報徳学園の試合で、自軍の先発ピッチャー・徳原世羅が乱れ、5番打者を迎えたところで早くも2番手の西隼人にスイッチしたのを見ての行動だった。

 しかし、監督の八木啓伸はそれを制止した。

「気持ちはわかるが、必要ないと言いました」

 春夏通じて26年振りに甲子園に出場した福岡大大濠は昨秋、県大会、九州大会、神宮大会と合わせて全13試合の公式戦を戦った。そして、その全試合において三浦が先発完投している。文字通り、大黒柱である。

 この選抜大会も、三浦頼みだったと言っていい。22日、1回戦の創志学園戦では149球を投げて6-3で完投勝利。26日、2回戦の滋賀学園戦では196球を費やし、延長15回を投げ切って1-1の引き分けに持ち込んだ。1日空けて、28日に行われた滋賀学園との再試合でも完投し、3-5で勝利。130球を投げた。

本人も、トレーナーもGOサインだったが……。

 準々決勝は、その翌日だった。試合前、三浦はこう話した。

「体が重いというか、少なからず疲労はありますけど、僕自身は投げられる状態にあります」

 トレーナーも100球程度なら投げられるとの判断だったという。

 これまで、三浦以上に疲労し、あるいははっきりと肩やひじに痛みを抱えながら登板したピッチャーを何人も見てきた。しかし八木はこの日の朝、三浦を投げさせないことに決めたという。

「本人は大丈夫そうなことを言ってましたが、周りの選手などにも聞いて、総合的に判断しました」

 昨今は投手を酷使すると、すぐさまバッシングを浴びる。そうした世論も少なからず影響したのかと問うてみたが、「それはない」とやんわりと否定した。

【次ページ】 体調に配慮とは言わず、優勝のための采配と言った。

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