野ボール横丁BACK NUMBER
清宮幸太郎を苦しめたインハイ攻め。
東海大福岡が突いた天才の弱点。
posted2017/03/27 18:10
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
インコース高めが苦手。野球に精通している人は、早実の清宮幸太郎のスイングを見て、二言目にはそう言った。
野球の動作解析の第一人者で、筑波大学の監督を務める川村卓はこう説明する。
「手首の柔らかさがすごい。だから、低めの変化球を拾うのがすごくうまいんでしょうね。清宮君のように世代で突出した強打者になると、みんな低めの変化球で攻めてくるので、それに合わせているうちに、そういうスイングになってしまったのかもしれない。
今は、拾ってばっかりですが、インハイにピッとくるピッチャーと対戦するようになったときは課題が浮き彫りになるでしょうね。高めのボールを手首を立てて叩けるかどうか。叩くのと、拾うの、2つのスイングがないと上では通用しない。そこはプロへ行ってからの課題でしょうね」
インハイを攻めるには、能力と勇気が必要。
ところがその課題が、高校生相手で露呈してしまった。
2回戦で早実とぶつかった東海大福岡のエース安田大将は、身長175センチ、体重68キロ。球速は120キロ台後半が出ればいい方で、どうがんばっても130キロには到達しない。にもかかわらず、清宮の成績は5打数2安打だった。第3打席は完全に打ち取ったものの、右中間への大飛球をライトが見失い三塁打にしてしまっただけなので、実質1安打に抑えたと言っていい。
おそらく、これまで清宮と対戦したどのバッテリーもわかっていたのだろう。ただ、球威と、制球力と、精神力、その3つが揃わないと清宮の懐は攻め切れない。間違えれば長打につながるインコースへ投げることは、ピッチャーにとって、相当なストレスがかかるのだ。そのため、デッドボールを与えてしまったり、攻め切れずに痛打され、結局は外一本にならざるを得えなかったのだ。
いずれにせよ、どのチームも共通していたのは、インハイを「見せ球」として使っている点だった。