野球のぼせもんBACK NUMBER
右手で触れるのはWBC球だけ――。
千賀滉大の執念は、決戦で生きる。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byNanae Suzuki
posted2017/03/21 21:00
今回の侍ジャパン投手陣で一番の安定感を見せている千賀。大リーガーにもフォークが通用すれば、投手としての価値はさらに高まる。
NPB球を右手で触らないと心に決めていたが……。
また、鴻江氏は千賀の好投にもう一つの理由があるのではないかと話す。
千賀は、昨年秋のクライマックスシリーズ以来、NPBのボールを絶対に右手で触ろうとしなかった。キャッチボールやピッチングでWBCの公式球を使用するのはもちろん、ノックの際にNPB球を使う場合はグラブトスしか行わないこだわり様だった。
「しかし、2月のキャンプ中、ふとした瞬間にNPBボールを触ってしまったそうなんです」
ボールの違いはよく言われるが、実際に質感も違えば、大きさも微妙にWBC球の方が大きいのだという。
WBC球を触り続けていて分からなくなっていた部分が。
「彼は調子が上がらないときもずっと『ボールの問題じゃない。自分のフォームが悪い』と言っていました。ボールが滑りやすいとか、投げづらいと思ったことはないと言うのです。しかし、実際はボールの違いがフォームに影響していたと思います。大きくて滑りやすいボールを強めに握ろうとするだけで、体の使い方は変わってきますから。
数カ月ぶりにNPB球を触った時に、あまりの違いに驚いたらしいです。その時に頭の中で理解したんでしょう。『これだけ違うボールを扱っていたのだから、投げ方に影響も出ていたんだ』と。ずっとWBC球を使い続けていたために、逆に分からなくなっていたのだと思います。頭で分かれば、人間の体は自然と反応する。本人にとっては良かったのかもしれません」
千賀自身はせっかくの努力を棒に振ったと焦ったらしいが、じつは怪我の功名だったというのだ。