野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
15歳で指名され、一軍は上がれず。
辻本賢人「阪神に入ってよかった」
posted2017/01/30 07:00
text by
酒井俊作(日刊スポーツ)Shunsaku Sakai(Nikkan Sports)
photograph by
Kyodo News
メタリックなノートパソコンを開き、よどみなくキーボードを叩いて英字を打ち込む。携帯電話が鳴り響くと、耳元に当てる。
「原稿、いま送りました。長いの、2本だけ待ってください」
'04年秋、ドラフト史上最年少の15歳で指名されて阪神に入団した辻本賢人はいま、雑誌の原稿を翻訳する仕事に取り組んでいる。出版社から依頼が来れば、丁寧に英訳していく。
'17年1月、プロ野球界は合同自主トレで体を動かす新人選手が話題の中心だ。お手並み拝見の春季キャンプが目前に迫り、希望と不安がないまぜになる季節だろう。あのとき、マスメディアに「ワンダーボーイ」と騒がれた15歳は、いま、28歳の青年になった。遠くを見ながら首をかしげる。
「いまは、もう全然、野球が気にならない。ホンマに、あの世界にいたのかなって思うくらい。違う人生を生きていたような感じがします。野球をやっていたときと野球が終わってから、人間が違うみたいな」
「15歳で、まだまだ球が速くなる手応えはありました」
13年前は、かつてない喧騒だった。15歳という年齢でプロ野球の球団から指名された話題性が先行し、テレビのワイドショーでも紹介された。その一方で、指名を懐疑的に見る向きもあった。「早すぎる。この年齢で通用するのか」と指摘する高野連の関係者もいたという。だが当の本人は夢をつかみ、真剣だった。
「プロが早いとは思わなかったですね。むしろ『いま入らないと入れないんじゃないか』と思いました。不安はホンマ、なかった。浮かれていたわけでもないけど入団前に『アカンかったらどうしよう』っていうのはなかったです」
さらに、続けて言う。
「ちょっとは自信がありました。15歳で、まだまだ球が速くなる手応えはありました。周りの同い年と比べても速いし、アメリカで成績を残しましたからね」