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補欠なし、卑屈なし、フレンドリー。
米と日本、スポーツ育成の違いは? 

text by

林壮一

林壮一Soichi Hayashi Sr.

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photograph byAFLO

posted2017/01/24 08:00

補欠なし、卑屈なし、フレンドリー。米と日本、スポーツ育成の違いは?<Number Web> photograph by AFLO

バスケットボールコートはアメリカのどこにでもあり、その全てがNBAに繋がっている。アーモン・ジョンソンも、その階段を上った1人だ。

「食べる物が無いというレベルでは無かったけど……」

 ウィリアムズ自身はプロにはなれなかったが、ネヴァダ州立大学リノ校のスター選手で、在籍中は毎シーズン、リバウンド王を獲得した。彼は、フロリダ州の貧民街で育っている。

「水道や電気を止められたことはありませんし、食べる物が無いというレベルではなかったですが、貧しい家庭でした。小学生時代のチームメイトで逮捕された経験がないのは私を含めて2名だけです。当時の仲間はギャングになっていきました。飢えから逃れるには、犯罪に手を染めるしかなかった。我が家も両親は離婚しています。私が12歳の時でした」

バスケットコートを居場所にすることの大きなメリット。

 ウィリアムズは、自宅、学校、バスケットコートの3箇所だけを生活の場としていたからこそ、トラブルに巻き込まれずに済んだ、と当時を振り返る。

「私はバスケットボールから教養を与えてもらいました。力のある子は推薦で大学教育まで受けられますし、そうでない子にも手を差し伸べてくれる学校がある。酒、タバコ、ドラッグと無縁の、クリーンな人生を歩むことができるんです。

 だからこそ、私はコートを教育の場だと思っています。『他者から尊敬される人間になりなさい』と伝えています。競技の魅力を感じる以上に、ベターな人間になってほしいといつも考え、子供たちと接します。

 子供たちの能力を引き出すのも殺すのも、コーチの存在が大です。指導者には責任がある。それを忘れたことはありません。子供たちと全力で付き合うためには、いつもエネルギーを満タンにしておかねばならない。だから私は、酒もタバコも一切やりません。いい指導者になるには、子供たちから尊敬されなければならない。子供は純粋で正直です。こちらが本気で無ければ、絆は作れません。うまく運んでいた関係が壊れるのもアッという間です。だから、常に全力で向き合わねばならないのです」

 ウィリアムズのアカデミーはスポンサーの後押しもあり、毎年、10名を無償でチームに迎え入れる枠がある。その際、ウィリアムズはテクニックを選考基準にせず、子供の目を見て合否を決める。

 過去の特別枠選手の中に、アーモン・ジョンソンという後のNBA選手がいた。

【次ページ】 後のNBA選手も、家庭は崩壊していた。

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#アーモン・ジョンソン

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