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サイ・ヤング賞左腕が歌手デビュー。
大リーガー、数奇な第二の人生。
posted2017/01/08 11:00
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
Getty Images
現役引退したメジャーリーガーたちの、第二の人生は様々だ。
たとえばバリー・ジート(38歳)。2003年のサイ・ヤング賞左腕は、1月27日に「Secret of Life(シークレット・オブ・ライフ)」などが収録されたデビューEPを出すという。
ジートは歌手ナット・キング・コールのバックバンドの指揮者(作曲や編曲も手掛けた)を務めた父親を持ち、母親が同じバンドのコーラスだったという音楽一家で育った。自然と子供の頃から音楽に慣れ親しみ、現役時代から「プロ級」と呼ばれたギターの腕前を披露していたのが息子=バリーだ。
米野球界ではCDを発売したこともあるバーニー・ウイリアムス(元ヤンキース)と並び称される「ギターの達人」だったから、プロ・デビューの話を聞いてもそう驚きはない。
ジートは生まれながらの“音楽耳”を持っていた。
ジートがオークランド・アスレチックスにいた頃、チームには彼を含む“ビッグ3”と呼ばれる先発3本柱がいて、クラブハウスに行くとほかの2人――マーク・マルダーとティム・ハドソンにチューニングや簡単なアルペジオなど、ギターのイロハを教えている姿を度々、見かけたことがある。
「面白いのは」と当時、ジートは言った。
「ここにいる連中はとても簡単に高価なギターを手に入れることができるけれど、“音楽耳”を持ってる人間は少ないってことだよね。僕は生まれながらの“音楽耳”を持っていた。それだけは簡単に買うことができないんだ」
学生時代にはヘヴィ・メタルのバンドを組んでいたこともあり、野球界の保守的な人々とは明らかに違うアーティスト気質のようなものを当時から垣間見せている。たとえば、彼が所属していたアスレチックスのライバルだったシアトル・マリナーズがオフの間に選手を補強したとする。そういう話をキャンプ中に本人に向けると、こんな答えが返ってきたものだ。
「あ、そうなの? オフの間はサーフィンに夢中になって野球から遠ざかっていたから、そういうことはまったく気に留めていないんだ」