マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
則本昂大、3年連続ミスターKの球質。
マー君から引継ぎ損ねている物は?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2016/12/27 07:00
新人から4年連続で2ケタ勝利、しかし敗戦も3年連続で2ケタに乗っている。則本が絶対エースになるためには、勝率の向上が求められている。
何球捕ってもミットを止められない快速球。
朝8時。
こんな時間に、本当にピッチングが始まった。眠くはなかった。立ち投げの最初の1球が、スカッと目を覚ましてくれた。
空気を切り裂いてくるような快速球って、こういうボールのことを言うんだな……。
見事な逆スピンのかかったストレート。ボールを放した指先から“見えない軌道”がこっちの構えるミットに引いてあって、その上をきちんと真っすぐに、しかしものすごい勢いでふっ飛んでくる。
捕球した瞬間のミットの“当たり”がここちよい。重くはないが、捕球点でミットがはね上げられるストレートの質。
止められない。何球捕っても、ミットを止められない。
ホップしてくるように見える快速球だ。
この回転だったら空振りがとれる。バッターの目には、“高さ”がわからない。
朝の8時から140キロ後半を立て続けに投げ込んでくるエネルギー。
さあ来い! もっと来い!
10球、20球、30球……ストレートばっかり、何球続けて要求しても、ヨッシ! オッシャ! そう小さく、しかし力強く反応しながら、構えたミットをほとんど外さずに投げ込んでくるフレッシュな若さ、そして意外な精度。めったにいない、折り目正しく投げられるパワーピッチャーだ。
これから伸びていく人のみずみずしさが玉の汗になって、彼の精悍な顔面から飛び散っていた。
アーム式の投球フォームの副作用が、ない。
「アーム、アームって言われて、なんか悪いことみたいな言われ方するんですけど、自分はこのフォームがいちばん気分よく投げられる。子供のころ、水泳やってたんで、そのせいで腕を大きく使えるようになったんですかね」
確かに、水泳のバタフライを連想するような豪快な腕の振りだったが、半身の姿勢で大きく踏み込んで、体重移動を使った“王道”の投球フォーム。アーム式の弊害である体が早く開いたり、首が飛んだり、そういう副作用が見られない。