サムライブルーの原材料BACK NUMBER
工藤壮人はMLSで代表返り咲きへ。
あごを骨折してもダイビングヘッド。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byAFLO
posted2016/12/20 11:00
あごの骨折を経験した工藤壮人の口からはマウスピースが覗いている。それでも、勝利のためならば彼は躊躇わずに飛び込んでいく。
工藤の「世界が広がった」ようなニアへのゴール。
「中に味方がいたんでクロスを入れようかなと思ったんですけど、相手のディフェンダーもゴールキーパーも中を消している感じだったんで、頭を切り替えてニアにブチ込んでやろう、と。レイソル時代にはなかった形なので、自分のなかでも成長したというか、ちょっと世界が広がったような感じを受けたゴールでしたね」
味方の決勝点にも絡み、MLSの週間ベストイレブンにも選出された。視界が一気に広がった感があった。
だが、思わぬアクシデントが工藤を待ち受けていた。
初ゴールの歓喜から4日後のシカゴ・ファイアー戦。前半11分、後方からの浮き球に合わせて抜け出した瞬間、前に飛び出てきたGKと正面衝突してしまったのだ。
ピッチに激しく打ちつけられ、その場で長らく動けなかった。口からは出血していた。あごを骨折する大ケガだった。
記憶は飛んでいても、体が悔しさを表明していた。
救急車のなかで、工藤はずっと舌打ちしていたという。付き添った妻から後でそう聞かされた。
「衝突して記憶が飛んで。気がついたら病室のベッドの上でした。もちろん舌打ちしたことも覚えていません。ただやっぱり、これからってときにケガをしてしまったんで、悔しくてそうなったんだと思います」
あごの再生手術が施され、歯茎にボルトを打ってワイヤーであごを固定された。そのため口を開けることができず、歯の間から流動食を胃に流し込まなければならなかった。固定が解けるまで1カ月。すぐに退院しなければならず、流動食づくりは妻が担うことになった。
「妻が一生懸命調べてくれて、ご飯を出汁で伸ばしてミキサーにかけるなど1日10食つくってくれました。ただ、あごの骨折なので、体自体は大丈夫だからサッカーをやれないのが凄くもどかしくて……。僕にとって大きなケガは初めてだし、そういうときにどうすればいいかって良くわからなかった。ケガして1週間後からエアロバイクをこいだり、筋肉を落とさないようにしようとか、サッカーを映像でチェックしようと、自分でやれるだけのことはやろうと思いました」