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棚橋弘至は1・4で何をたくらむ?
不気味な沈黙を続けるエースの心中。
posted2016/12/01 11:30
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
棚橋弘至が静かだ。
静かすぎてすごく不気味だ。
新日本プロレスのビッグマッチ1・4東京ドーム大会が近づいているのに「エース」は1歩も2歩も引いたまま目立ったアクションを起こさない。
棚橋はシャワーも浴びずに、30分以上、メインイベントの内藤哲也の試合が終わるのを待っていた。
11月5日、大阪府立体育会館。
棚橋はセミファイナルでSANADAを倒すとインタビュースペースの床に倒れながら「東京ドームのメイン」を口にした。「どうやって?」と耳を疑う言葉だったが、何かにつかれたように、執念のように、それをつぶやいた。
棚橋にしてみれば、やっと7月まで時計の針を巻き戻すことに成功した感触があった。
内藤の試合が終わると、棚橋はヌーっと花道に姿を見せた。内藤の持つIWGPインターコンチネンタル王座への挑戦表明だった。
奇跡的なカムバックを狙ったが、途中で力尽きる。
夏のG1クライマックスの時、負傷休場明けの棚橋の体は、まだ再生していなかった。がむしゃらに疲れを知らないように戦い動き続けた代償だった。
7月18日、札幌でのG1開幕戦でSANADAにギブアップ負けしてから3連敗。その後、気力で勝ち星を重ねて、奇跡的なカムバックを目指した。もしかしたら、優勝も行ける、とも思わせた。だが、リーグ戦最後の試合となった8月12日の両国国技館で、オカダ・カズチカと時間切れで引き分けて、棚橋は力尽きた。
中途半端な体調で、エンジンを目いっぱいふかしたことで、棚橋の肉体は重い負担に耐えられなかった。その後もシリーズには欠場せずに参戦を続けてきたが、再発進には、想像以上に時間を要した。
スポットライトを浴びるポジションから棚橋の姿は消えた。